2024年11月13日( 水 )

【政界Watch】堕ちた偶像「ポエム小泉」がエネルギー政策で父子共同戦線?

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■「ポエム小泉」が一転、石炭火力推進勢力に“宣戦布告”

記者会見で石炭火力反対を表明する小泉進次郎環境大臣
記者会見で石炭火力反対を表明する小泉進次郎環境大臣

 「(気候変動問題に対する)セクシー発言は意味不明」「なぜ日本の石炭火力推進政策に異論を唱えないのか」といった批判にさらされてきた小泉進次郎環境大臣が突然、これまでの政権追随姿勢とは違った発信を始めた。1月21日の会見で、ベトナムへの石炭火力プラント輸出案件「ブンアン2」について、輸出4要件未達として反対したのだ。

 小泉氏が問題視した「輸出4要件」の1つは、日本が誇る最先端の超々臨界以上であること。しかし実際は、最先端技術の海外輸出ではなく、日本がお金を出して中国と米国の企業が建設する計画で、この食い違いを小泉氏はこう暴露したのだ。

 「この件の実態は、日本の商社が出資をして『JBIC(国際協力銀行)』が入り、プラントのメーカーとして中国のエナジーチャイナと米国のGEといったかたちで成っています。今までさんざん聞いてきた1つのロジックは『日本がやらないと中国が席巻する』。しかし構図は日本がお金を出して、つくっているのは中国とアメリカ。こういう実態を私はやはりおかしいと思います」

 そして石炭火力推進に対する国内外の批判にも触れながら、JBICを所管する財務省などの「各省と調整していきたい」と意気込み、脱炭素社会を目指すと宣言したのだ。「国際社会からはこれだけ批判を浴びながら、こういった実態があることはどう考えても私はおかしい。日本の政策をより良い脱炭素化に資する方向に変えていきたい」。

「原発ゼロ実現」を訴える全国講演行脚を続ける小泉純一郎元首相

 グレタさんの演説など国際世論に触発された小泉氏が、石炭火力推進勢力に“宣戦布告”をしたようにも見えると同時に、脱原発の講演を続ける父・小泉純一郎元首相と二重写しにもなった。首相時代に専門家から「原発は安全で、コストが安くて、クリーンなエネルギー」と聞いて原発推進政策を進めた純一郎氏は総理辞任後、福島原発事故を目の当たりにして猛勉強、「頭のいい人にだまされていた」と気が付いて、全国講演行脚を開始。

 各地で「原発は安全じゃない。クリーンでもない。金まみれの、金食い虫の環境汚染産業だ」と熱弁をふるいながら、再生可能エネルギーへの転換を訴え続けている。「やられたらやり返す(だまされたら反論していく)」という“戦闘的DNA”を息子がきちんと受け継いでいたようにも見える(小泉純一郎談 吉原毅編『黙って寝てはいられない』参照)。

吉原氏と小泉元首相は盟友
吉原氏と小泉元首相は盟友

■原発問題で“国際標準”の安全基準採用を宣言~小泉氏の本気度は本物か

 原子力防災担当大臣も兼務する小泉環境大臣からは、原発関連の質問でも前向きの回答が返ってきた。私が指摘したのは、「再生可能エネルギー主力電源化」を掲げる一方で原発再稼働に邁進する安倍政権の矛盾。送電線を持つ大手電力会社が未稼働の原発の枠をあらかじめ設定する一方で、再生可能エネルギーの送電線利用を拒否する事態が全国各地で起きているのだ。小泉元首相が最高顧問で、吉原毅・城南信用金庫相談役が会長の「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」が経産省や経団連に改善(原発分の枠縮小)の申入れをしたのはこのためだ。

 そこで、「原発再稼働分の送電線容量確保が再生可能エネルギーの阻害要因となっている。環境大臣として物申していくのか」と聞くと、小泉氏は「環境省としては、再生可能エネルギーを主力電源にしていく閣議決定を阻害する要因は1つでも多く突破していく」と断言した。

経産省に申し入れをする吉原相談役ら(送電線問題)
経産省に申し入れをする吉原相談役ら(送電線問題)

 さらに「原発再稼働はおかしいと経産省に物を申していくのか」と再質問で確認すると、「(経産省とは)さまざまなコミュニケーションを日ごろからやっているので、私の問題意識は重々承知の上だと思います」と答えた。原発推進の拠点ともいえる経産省にすでに異議申立てを行っているかのような口ぶりだった。もちろんリップサービスの可能性もあるが、“原子力ムラ”の総本山ともいうべき経産官僚との激論内容を公開していけば、本気度が国民に伝わることになるだろう。

 また原発事故時の避難計画に関する質問にも、担当大臣としての意気込みが感じ取れる回答が返ってきた。伊方原発差止仮処分の翌1月18日付朝日新聞を紹介しながら「避難計画が実効性のないまま(原発が)稼働している現実について問題視していくのか」と聞くと、こう答えた。「原子力防災担当大臣として最重要の役割の1つが、地域の皆さまと一緒になって避難計画づくりをしっかりと進めていくこと」「全国でまだこの避難計画づくりができていない地域もあるので、しっかりと出来上がるように継続して支援をしていきたいと考えている」。

 朝日新聞が紹介したのは、原発から南東40キロほどのところに位置する「祝島」(山口県上関町)の漁師・橋本久男氏の発言で、「船を持っている島民は20人ほど。避難することになっても全員、無事に避難できる保証はない」という内容だ。

 このことを聞いたうえで小泉氏が発した回答は、原発稼働にブレーキをかける有力な手段になり得るものだ。玄海原発周辺の離島視察をした山口祥義・佐賀県知事が避難計画の杜撰さを聞かされたことについて、元経産官僚の古賀茂明氏は米国の具体的事例を紹介、日米の大きな違いを次のように指摘した。

 「米国の場合、原発の近くの島民が安全に逃げられる対策をとらない限り、原発建設は認められなくなり、ニューヨーク州ロングアイランドの原発では島民の確実な避難方法が提示できず、結局、廃炉が決まった。米国と同じ安全基準を適用すると、玄海原発周辺の離島でも島民に十分に配慮した避難対策を講じない限り、再稼働はできなくなる」。

 育休取得が海外メディアでニュースになることは日本の後進性の現れと強調した小泉氏が、原発問題でも“国際標準”の安全基準を採用、「米国並の実効性のある避難計画ができるまで原発稼働は止めるべき」と宣言することは十分に整合性があり、多くの国民から拍手喝采を受けることになるだろう。石炭火力輸出への反対で「閣内不一致」と報じられた小泉環境大臣兼原子力防災担当大臣が、避難計画の杜撰さを“切り札”にして原発稼働にストップをかけるまで踏み込んでいくのか。

 今回の石炭火力反対会見で見せたイメージチェンジが、気候変動問題で評判ガタ落ちからの挽回を狙ったリップサービスにすぎないのか、それとも閣内から政権のエネルギー政策を変えていく覚悟をともなったものなのか。今後の小泉氏の言動が注目される。

【ジャーナリスト/横田 一】

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