2024年12月22日( 日 )

【インタビュー/加谷 珪一】オリンピック後、2020年代日本の未来図~祭りの後の日本経済発展のために(1)

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経済評論家 加谷 珪一 氏

 2020年、56年ぶりに東京オリンピックが開かれる。前回の東京五輪同様、その後に景気が低迷すると予測されている。また、2020年から全都道府県で人口減が始まるとの予測(国立社会保障・人口問題研究所)もあり、つい暗い材料にばかり目が行きがちである。オリンピックという「祭りの後」、私たちは日本を発展させるために何に注目し、どう取り組むべきなのか。経済評論家・加谷珪一氏に日本社会の今後の展望についてうかがった。

 ――本日は日本の未来図について語っていただきたいのですが、まず直近のことからお聞きします。今年2020年に実施される東京オリンピック終了後、現在の建設需要が減少し、景気が後退していくとの懸念がありますが、これについてどう見ていらっしゃいますか?

 加谷 一気に不景気になるという見方がありますが、私はそこまで酷いとは思いません。都市部を中心に相当数の新規ビルの建設工事が行われています。オリンピック関係の建物、インバウンド関連の商業施設もありますが、オフィスビルのように無関係の建物もあります。オフィスビルが多く建設されているのには量的緩和策の影響で金利が非常に下がっているという背景があります。銀行が貸出先に困っている状況で、余った資金が不動産建設にまわっているのです。

 現在の過剰ともいえる不動産建設は量的緩和策による影響のほうが大きく、建設需要におけるオリンピック効果はプラスアルファという程度のものと理解しています。量的緩和策の是非はここでは論じませんが、低金利状態がすぐに終わるとは思えず、数年続くでしょう。その意味で、オリンピック後に景気が深刻に落ち込むと心配する必要はないと思います。

 日本経済の最大の問題は消費、とくに個人消費が非常に弱いことであり、その理由は人々が医療、年金などの不安を抱え、日本の将来に楽観的ではないからです。賃金が上がらない状態が続き、それで財布の紐が固くなっています。とくに若い世代の賃金が非常に下がっていて、消費マインドが冷えこんでおり、これが日本経済をじわじわと蝕んでいます。

 オリンピック前は皆で頑張ろうと前向きになっていますが、オリンピック後は、ある種の目標がなくなる状態に陥ってしまうのではと心配しています。このようにオリンピックを軸に保たれてきた消費者のマインドが冷え込むというリスクはあります。

 ――福岡にいるとオリンピックの盛り上がりをそれほどには感じないのですが、東京では雰囲気が違うのでしょうか?

 加谷 福岡はビジネス、商売をする人が多く、日本で数少ない元気のある街です。ほかの地域も福岡のようであればよいのですが、東京やほかの地域には、政府が何かしてほしいという雰囲気があり、オリンピックに過剰に期待しているように感じます。東京の一部地域での再開発は需要があるから行なっているというよりも、資金があるので再開発をして需要を喚起しようというものであり、順序が逆転していると思えます。

 ――訪日観光需要について、オリンピック後も維持するには何が必要でしょうか。

 加谷 心配しなくてよいと思います。オリンピックを目的に訪日される方はいますが、訪日観光の理由はそれだけではありません。一番多く来ている中国は、米国との貿易戦争で景気の停滞が言われていますが、それでも年に6%成長しており、毎年どんどん新しい中間層が出現しています。富裕層は欧米に行くのでしょうが、そこそこの中間層にとって日本は近くて来やすい旅行先であり続けるのはほぼ間違いないと思います。

 現在、中国の観光業界に起きているのは、歴史を遡って見てみると、日本で1970代に海外旅行ブームが起き、80年代になるとお金に余裕も出てきてさらに積極的に海外に行った状況に相当すると捉えています。

 日本でその後バブルが崩壊しても海外旅行へ行く人は減らず、それほどお金がない人でもバックパッカーとして海外旅行に行くようになるなど裾野が広がりました。歴史は繰り返すものであり、5~10年経つと同様に若い中国人のバックパッカーも日本にやって来ると予測しています。ただ、客層が変わっていくので、それをきちんとキャッチアップしないとニーズを満たすことができません。中国人の生活水準の違いにきちんと対応していくことが大事です。

(つづく)
【聞き手・文:茅野 雅弘】

※インタビューは昨年12月に行いました

<プロフィール>
加谷 珪一 加谷 珪一(かや・けいいち)

 経済評論家。仙台市生まれ。1993年東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、ニューズウィークや現代ビジネスなど数多くの媒体で連載をもつほか、テレビやラジオなどでコメンテーターを務める。

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