【インタビュー/加谷 珪一】オリンピック後、2020年代日本の未来図~祭りの後の日本経済発展のために(3)
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経済評論家 加谷 珪一 氏
――政府はそのような業界の垣根を取り払うように動くでしょうか?
加谷 今後の政府の役割は、イノベーションがスムーズに起こるようにすべきであり、できるだけ邪魔をせず、弊害が出てきた時に政府が動くように変わっていくべきだと思います。昭和、平成時代の政府の仕事は各業界の利益を調整することであったと思いますが、今後は横方向の連携が強くなり、既存の縦割りの考えでは物事をうまく進められないでしょう。
現在、政府の考えは危なさそうなので最初から規制をかけるというものですが、実際にやってみてダメなところに規制をかけるという風に転換が必要です。
政府に提言などをすると、皆さまその通りと仰ってくださるのですが、各論になると「これがなくなると困る」と権限が関係するのか反対になってしまいます。進めるには政治の大きなリーダーシップが必要だと感じます。この面は中国、東南アジアなどがはるかに進んでいます。中国、カンボジアなど独裁政権の国には問題はありますが、物事が一気に決まります。日本は物事を決めるのが大変だと思いますが、うかうかしているとそれらの国にどんどん先に行かれてしまいます。
――2020年から人口減少社会に入るとの予測があります。外国人労働者の受け入れについてどうお考えですか?
加谷 外国人労働者の現在の状況は、安価に雇える労働者が欲しいという企業側の理屈によるものだと理解できます。今後の問題は、日本は相当経済力が落ちており、賃金も安く、外国人にきてもらいたくても来てくれなくなるかもしれないことです。ロボットの発展などを考慮すると、外国人労働者に頼り切るやり方は好ましくなく、近い将来、外国人労働者がきてくれなくなる可能性を踏まえて経営を行っていくべきです。
日本が高い技術をもったエンジニア、たとえばインド人などのエンジニアに選ばれなくなるのはもう時間の問題でしょう。賃金を上げるためにも、生産性を向上させる投資が必要であり、これができないと如何ともしがたいです。省力化、AI化、ロボット化への投資をできるだけ増やし、なるべく人手をかけない体制づくりにお金をかけるべきです。国内の労働者が足りないから外国の労働者を受け入れるというのは近視眼的な考えです。
日本はすでに大量の外国人労働者を受け入れており、彼らは日本で生活し、一部は結婚し、子どもを産み、日本社会に馴染んできます。望むと望まざるにかかわらず地域社会の一員となっており、日本人と同じように生活が担保されるようきちんと手当をしないといけないと思います。人権など社会的な側面以外に、経済上でも、受け入れた以上は日本で生活できるよう手当が必要だと思います。
――日本企業の生産性向上について問題提起をされています。どうすべきでしょうか?
加谷 日本は実は1970年代からずっと先進国のなかで生産性が最下位のままです。これは由々しき事態でして、変えないといけません。生産性の向上とは具体的にいうと3つあります。
(1)儲かるビジネスを行う、(2)利益を上げる、(3)労働者数、労働時間を減らすことの3つです。
現在、労働時間を減らすことが言われていますが、10時間の労働時間を2時間に減らすような劇的なことはできません。日本は労働時間を減らすことに重点を置いていますが、これには限界があります。大事なことは利益を上げることであり、儲かるビジネスをやらないといけません。これは労働者ではなく経営者がやるべき話です。日本は昭和の時代の名残で、安いものを大量生産という考えから抜け出ておらず、より付加価値の高いものを売っていくビジネスモデルへと、事業構造を儲かるものへと転換しないといけません。経営が変わるべきなのです。
政治にもそのような変化を促す政策が求められます。最低賃金を上げるべきという議論がありますが、儲からないなかでの無理な賃上げは、物価の上昇をともなうため効果があまりありません。儲かるようになり、その結果として賃金が上昇するという流れにならないと、持続的な成長はできません。働き方改革は効果がないわけではないですが、抜本的な変化には結び付きません。経営の在り方を変えていく必要があり、ここは経営者の出番です。
AI時代、IT時代には、何か新しいモノをつくって売るという考えから、今あるものを組み合わせ、新しい価値をつくるという考え方にシフトしなければなりません。地道に1つの物をつくっていればよいという時代は終わりますので、価値観を変えていかないといけません。
(つづく)
【聞き手・文:茅野 雅弘】※インタビューは昨年12月に行いました
<プロフィール>
加谷 珪一(かや・けいいち)
経済評論家。仙台市生まれ。1993年東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、ニューズウィークや現代ビジネスなど数多くの媒体で連載をもつほか、テレビやラジオなどでコメンテーターを務める。関連記事
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