福岡市東区の傾斜マンション、構造計算にも問題あり!(前)
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中国福建省泉州市で新型コロナウイルス感染者の濃厚接触者を隔離する施設となっている6階建てのホテルが3月7日夜、突然崩壊した。約70人が瓦礫の下敷きになり救出活動が続けられている。
このように、海外では耐震性の低い建物の倒壊が度々発生している。地震大国と言われる日本では、建築基準法や関係規定が厳しいので、世界の中でも建築物の耐震性が高いという認識が一般的だ。
しかし、肝心の建築基準法や関係規定が守られていなかったらどうだろうか?海外での建物倒壊は他人事ではなくなる可能性が高いのではないだろうか?
NetIBNewsが以前報道した福岡市東区の分譲マンションの傾斜(最大高低差:10.1cm)問題(福岡市東区の分譲マンションが傾斜 販売業者の対応に憤る住人)。「玄関のドアの開閉が非常にしづらい」、「ひび割れが大き過ぎて反対側からの光が漏れている」、「建物を支える杭が支持地盤に届いていないため、建物が傾斜している」などという深刻な事態となっている。
このマンションは1995年に分譲を開始された全60戸・鉄筋コンクリート造7階建て、全8棟で構成されるうちの5番目に竣工した棟である。このマンションの分譲会社はJR九州と福岡綜合開発(現・福岡商事)、施工は若築建設・九鉄工業、設計は若杉建築設計事務所とされている。
JR九州や若築建設は区分所有者に対し「不具合は主要構造部分に起因するものではない」、「不具合が主要構造部分に影響を与えることはない」などと合理性に欠ける回答をしている。建物の傾斜(101mmもの高低差)についても、「建物の傾斜の原因は特定できない」「今後原因追究は行わない」と区分所有者を突き放す回答をした。
JR九州は現在もMJRシリーズマンションの分譲を続けておりそのブランドは一定の人気を得ているが、このマンションにおける対応を見る限り、JR九州は三流企業と言わざるを得ない。福岡商事(マンション分譲時は福岡綜合開発)は福岡銀行が筆頭株主であり社長も福岡銀行出身の企業である。JR九州と福岡銀行という福岡を代表する公共性の高い企業グループが区分所有者を見放しているのである。
施工の瑕疵に関する損害賠償請求などについて、法律上、除斥期間という壁が立ちはだかる。建物の経年劣化などを考慮し、建物の引き渡しから20年を経過すれば不法行為責任を追及できない。区分所有者らは専門家に調査を依頼しているが、区分所有者側の調査結果が出たとしても除斥期間を超えた建物について責任を追及できるのか疑問である。
施工に瑕疵があったことは明らかであるが、設計に問題はなかったのであろうか?
編集部では若杉建築設計事務所に連絡を取ろうと試みたものの、連絡先が判らなかった。建築設計業界の方に聞いたところ、若杉建築設計事務所は既に廃業しているらしいとのことだったが、この建築設計業界の方の情報からこのマンションの構造設計者にたどり着くことができた。この構造設計者(仮名「A氏」とする)が管理建築士をしていた構造設計事務所は既に建築士事務所登録を抹消しているが、マンション住民のためということで、インタビューに応じていただいた。以下、A氏とのインタビュー。
マンションの瑕疵の一義的責任は全て販売会社にあり
――建物が傾斜していると問題になっている福岡市東区の分譲マンションについてお尋ねします。傾斜問題はご存知ですか?
A氏 テレビを見て知っていました。玄関ドアが開閉できないなど、住民の方は大変不便な思いをされているだろうと思っていました。
――このマンションの施工中に施工ミスがあったと思われますか?
A氏 私の事務所は施工監理には携わっていないので、施工中のことは分かりません。ただ、若築建設は海洋土木を得意とする いわゆる「マリコン」で、マンションの施工は、このマンションが初めてだと聞いています。杭の施工でもミスがあったようですが、建設工事といっても、海洋土木工事とマンションでは天と地ほどの違いがあります。
共同企業体を組んでいた九鉄工業の筆頭株主はJR九州であり、売上の半分以上は土木工事だと言われています。
――若築建設や九鉄工業の施工技術が未熟だったと言えますか?
A氏 マンションの施工に不慣れであったことは否めないと思います。しかし、マンションの販売者はJR九州と福岡綜合開発です。区分所有者に対しては、マンション販売会社が一義的な責任を負うべきです。施工や設計の問題は、マンション販売会社と施工会社・設計事務所との間で争うべきことです。
――JR九州は、現在もMJRシリーズマンションを分譲しています。JRが分譲するマンションは人気のようですが、このマンションにおける対応を見る限り、誠意は全く感じられません。
A氏 JR九州が分譲しているマンションはグレードが高いと言われています。中古マンションでもMJRシリーズは高い価格で売買されています。しかし、売りっぱなしで瑕疵があっても誠意ある対応をしないなど倫理観に欠ける企業は社会的に存在価値がないと言えます。ましてや、鉄道を運営している公共性の高い会社であれば、社会貢献という姿勢は必要だと思います。
――施工の瑕疵について、住民から調査を依頼された建築士のI氏は「JV側の過失や建物の危険性は住民側が立証しなければならない」と区分所有者たちに語っています。
A氏 施工の瑕疵を追及しても、法律には20年という除斥期間があるので、瑕疵の追及は難しいものとなります。I氏はテレビにも登場されている著名な方ですが、竣工から25年経過しているこのマンションで、施工の瑕疵を追及しても勝ち目はないと思います。I氏もプロですから、除斥期間のことは百も承知のはずですが、なぜ調査を引き受けられたのか理解に苦しみます。もっと違う方法があるのではないかと思います。
また、除斥期間を過ぎているにもかかわらず「JV側の過失や建物の危険性は住民側が立証しなければならない」と区分所有者に語っていることも無責任な発言だと感じられます。
(つづく)
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