九州から誕生したヤマエグループホールディングス(以下、ヤマエGHD)、トライアル、コスモス薬品の“同時1兆円”は、日本の流通構造が転換点に入ったことを象徴する。イオン連合によるツルハ・ウエルシア統合、フード&ドラッグの寡占化、卸の再編加速、トライアルの西友改革など、業態の境界は急速に溶けつつある。一方で物価高騰や需給ミスが小売の体力を直撃し、ローコストで届ける力が企業の生死を左右する。2026年、流通各社の選択が市場構造を大きく塗り替える。
九州発「1兆円トリオ」
流通地図を変える戦略
2025年は、九州流通界にとって、大いなるエポックの年だった。卸ではヤマエGHD、小売ではトライアル、コスモス薬品がほぼ同時に1兆円に到達したのだ。流通卸、小売でしかも3社同時というのは、小さくない驚きだ。
昨今、規模のメリットといえば、その売上の最低値は1兆円というのは異論のないところだろう。3社の拡大戦略がそれぞれ大きく違う点にも注目が集まる。ヤマエGHDは卸関連事業に加えて外食、建築と幅広い分野に進出することで1兆円を超え、トライアルは小売のM&A、コスモスは直営フード&ドラッグの積極出店でそれを達成した。
もう1つの注目点は事業に関連した新たな情報収集や施設建設への投資を試みていることだ。ヤマエGHDは新型物流倉庫、トライアルはメーカーとの情報交流システム、コスモスの医療モール併設などがそれにあたる。新たな試みと1兆円を引っ提げて、東日本に挑戦する3社の競争力と生存力が改めて試される26年である。
イオン連合VSコスモス薬品
フード&ドラッグ覇権争い
コスモスの業態・フード&ドラッグは同業界上位10社のシェアが全体の80%を超える。そんななかでツルハ、ウエルシアが経営統合した。調剤を含む新会社の売上は2兆3,000億円。市場シェアは25%を超える。しかも合併を主導するのはイオンだ。この合併は単に同業態の合併というだけでは終わらない。新会社のフード部分はイオンにとって新たな市場になるからだ。業態の垣根の1つが消えたともいえる。
長い間、1兆円の壁の前で、足踏みをしていたイオンのプライベートブランド(以下、PB)・トップバリュへ追い風が吹いた。ナショナルブランド(以下、NB)食料品の一斉値上がりだ。トップバリュは加工食品だけでも2,000を超えるアイテムをそろえる。だから、消費者が家計節約対策に思わず手を伸ばし、結果としてNBから乗り換えるというケースも少なからず発生したはずだ。
そんななかで、イオン関連ドラッグの合併が新たな販路を生み出すことにもなる。合併の副次効果だ。イオンの次の戦略も同じ手法の継続だろう。新生ドラッグの30年目標は売上3兆円、営業利益2,100億円だ。
寡占とM&Aが加速させる
ドラッグストア再編
それに対をなすのがコスモス薬品だ。独自戦略で拡大をしてきたその手法を今のところ大きく転換する気配はない。今でこそ、どこにも見られるピンクの店舗サインだが、業態としては極めて合理的だ。ロスの少ない加工食品と雑貨、薬品で独自の型をつくり出した。端的にいえば、スーパーマーケット(以下、SM)より安い店舗建設投資、SMより少ない商品廃棄ロス、SMより低い販売管理費でSMより低価格を実現したことだ。
コスモス薬品の売場に、生鮮を加えればそれはそのままSMになる。しかし、それを実行すれば先述した優位条件がすべて消え去るということだ。合わせて、既存SMとの同じ土俵での競争が発生する。近隣でそうなればズバリ消耗戦だ。利益なき繁忙のなかでお互いに体力をすり減らす。営業の面で見るとSMにはクレームが少なくない。そのほとんどが生鮮食品に関するものだ。そしてそれは店がある限り継続して発生する。
そんなSMのデメリット部分を取り除いたのがフード&ドラッグ業態だ。フード&ドラッグには別の強みもある。設備投資も店舗の運営技術もSMよりはるかに負担が軽いから大量の出店が可能ということだ。加えて損益分岐の売上が低い。つまり、小さな売上でも利益が出るということだ。対象顧客数はSMの3分の1で済む。つまり、SMが成立しない場所でも経営できるということになる。それがフード&ドラッグの強さだ。
そんなフード&ドラッグのコスモスだが、1兆円の売上の60%を食品が占める。生鮮を除く食品売上は日本最大のSM「ライフ」を上回る。それに匹敵する企業はイオン以外に我が国には見当たらない。
コスモスは選択と集中の極めて高度な成功事例だ。立地を小商圏に設定、集中出店でSMのシェアを削り、その競争力を奪う。同じ業態なら、総合的な競争レベルでの勝負になるが、加工食品中心のNBなら競争は価格しかない。そんな目で見ると、SMにはドラッグストアに対して、有効な対抗手段がない。しかしいかにフード&ドラッグとはいえ、M&Aなしで拡大を続けようとすればいずれ自社、同業態との近隣競合が発生し、不採算店舗が増加する懸念がある。
イオン傘下の新生ツルハグループは中期計画で32年の売上3兆円、営業利益2,100億円を掲げる。毎年1,000億円の売上上積みが必要だ。既存店の平均売上でそれを達成しようとすれば年間250店舗の出店が必要ということになる。当然、自社出店だけでなく新たな統合を視界に入れているはずだ。それによるコスモス、サンドラッグといった独自経営を続けるチェーンドラッグの戦略転換がいつ起きるかということとその結果が気になる今後のドラッグ商戦である。
先に大手寡占が進んだアメリカでは不採算店対策と規模拡大の同時解決を目論んだM&Aが進んだ。どんな拡大もいつか峠がやってくる。25年のメガドラッグの合併に始まった業界M&Aがコスモスやほかのフード&ドラッグ企業の今後の戦略にどう影響するか興味深い。
非効率の効果を武器にする
ヤマエGHDの成長軌道
文字通り薄利多売の卸業界だが、大手商社系列と非商社の大手だけでなく、多くの卸が生鮮と一般食品合計100兆円の市場を分け合う。一般にいわれるように我が国の卸業界は特殊だ。かつてテスコ、ウォルマート、カルフールといった世界のパワー小売が撤退に追い込まれた。その原因の1つに問屋システムをうまく利用できなかったことがあったといわれる。
我が国の卸は、いろいろな商品を大小の小売が要求する条件で納入する御用聞き的サービスという性格をもつ。いうなれば非効率の効果だ。非効率経営は規模が小さく地域密着の企業に向いたシステムだから、地方それぞれ、伝統的な生活文化をもつ我が国は多くの業種店が存在した。
そしてそれらの多くは個人経営型のSMやコンビニなどに形態変化したが、仕入れ、調達の部分は従来からの卸が担った。必要なモノを必要なだけ、必要な時間に適正な価格でといった小売のニーズに応えるのは簡単ではない。それに対応した日本の卸は文字通り強靭な鎖のシステムだ。欧米大手小売の撤退はこの鎖を超えられなかったということだろう。
一方、半ば非効率もいとわないこのシステムの営業利益は極めて小さい。上位大手卸のなかには営業利益率が1%に満たないところがある。しかも今後、オンラインへの対応等の新たな施設も必要になるから、この分野に思い切った投資をする企業は少数だろう。しかし、投資のない未来には希望も生まれないから、中小卸の廃業や合併は今後も続くだろう。
そんななかで卸業務を堅実に伸ばしていくのは大手商社系とヤマエGHD、加藤産業などの一部大手だろう。卸の機能は商品供給だけではない。新規出店のサポートや低コストの配送、納品など製造から販売までの一貫サポートを担うというのが現在の有力卸のやり方だ。製造、卸、小売の各部分に強く関わりながら、同時に異業種を含むM&Aを繰り返すことで、より強い卸システムをつくり上げる。結果として、全体の規模を拡大するというのがヤマエHDの卸戦略ということだろう。
トライアルのGMS再構築と
西友の正念場
ダイエーやユニーといったかつての総合スーパー(以下、GMS)店舗跡に出店したドン・キホーテが繁盛している。その理由は簡単だ。従来型を捨てたからだ。どこに何があるかわからない。年配者には気が狂いそうな売場配置が若者にはわくわく感を与える。小売にとって、年配客はあまりありがたくない。なぜなら、モノを買わないからだ。
たとえば衣料品売場にはいつの時代にも、高齢者コーナーがない。その理由は売れないからだ。言い換えればGMSの売場もそんな売場と同じだった。いくら工夫しても売れないモノは売れない。対策はそれを捨てるしかない。GMSの衰退は捨てるべきものを捨てきれなかった結果だ。ドンキは捨てた。だから見違える売場になったのだ。
翻って、西友を見てみよう。西友はその経営は変わったが、お客から見た売場は何ら変わらなかった。小売業は付加価値の商いだ。価格、品ぞろえ、提供方法によっていかに価値を付加できるかで結果が決まる。お客が買うのはシステムでも経費構造でもない。自分に必要なモノだ。それなくしてはいかに表向きの数値コントロールがうまくいったとしても最後は詰まる。西友はまさにそんな歴史を繰り返した。
トライアルの西友買収で囁かれたのは同社にとって軽くない投資金額だ。しかし、適正投資は絶対額では決められない。いくら初期投資が小さくてもそこに利益が生まれなければ、それは失敗だ。トライアルは西友の売場をトライアル化し、併せて近隣にサテライト店舗をつくる。対通常型SM、コンビニに対してデリカテッセン主力のニューコンビニの展開戦術だ。
いまのところ、シズル感と低価格で消費者の注目を集めている。問題はその手法がどれくらいの売上拡大に貢献をするかだ。さらに、既存店舗の改善ができるかどうかも投資の成否に大きく影響する。うまくいけば売場は豊かな利益を生んでくれる。しかし、そうでなければ、その逆が生まれる。トライアルにはユニークな品ぞろえと斬新さが売り物の大型フォーマットがある。しかし今のところ、それが完全な成功フォーマットとはいえない。そんなトライアルの行方は今年の業界の注目を集める。いわゆる正念場だ。
物価高騰と需給ミスが示す
ローコスト小売の生存条件
天候不順による野菜、果物の不作とコメの作柄の見誤りといった要因があったものの、水産、畜肉、冷凍、加工食品の値上がりは社会問題になるほどの変化だった。マスコミは円安を中心とした為替問題をその主因とするが、為替相場の乱高下はこれまでにも何回もあった。しかし、必ずしも、それに呼応してモノの価格が動いたとはいえない。
たとえばコメの価格高騰を例にとると、肥料や農薬などの生産資材の値上がりによるものといわれるが、主因は農水省の生産予測と生産調整の不具合だ。机上の推計ではコメあまりによる生産調整が必要と結論付けたが、実際の現場では深刻な品不足が発生していた。
コメの価格は需給で決まると当たり前のことを農水省はいう。ところが肝心の供給の不足で業者やJAの仕入れ価格はあっという間に高騰した。昨年の不作に端を発した予約価格は今年も変化がない。結論として従前の価格を実現するには仕入れ価格を下回る卸値で小売業者に売るしかない。それでも新米はリーズナブルな価格にはならないだろう。
生死にかかわるものでなければ消費者は無理な出費はしない。結果として発生するのが買い控えだが、それはやがて米離れにもつながる。国、生産者、消費者の三方一両損だ。抜本的な解決策は生産者も消費者も納得できる価格だろう。しかし、生産の多くを兼業米農家に頼る現実を考えると消費者が納得する5kg3,000円以下という小売米価の実現は容易ではない。その構図は小売業界にも通じる。必要なモノをいかにローコストで手軽に消費者に届けられるかという物販の基本は変わらないということだろう。それができない企業は消える。
【神戸彲】








