2024年12月23日( 月 )

前田建設、前田道路の敵対的TOBに成功~子会社の道路は、なぜ、親会社の建設に徹底抗戦したのか(前)

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 クラウンジュエル、ホワイトナイト――。敵対的買収の防衛策である。親会社の前田建設工業が仕掛けた敵対的TOB(株式公開買い付け)に子会社の前田道路は対抗策を次々打ち出して徹底抗戦。親子会社による“仁義なき戦い”で、異例かつ異常なM&A(合併・買収)であった。

建設は道路を力でねじ伏せたが、うまくいくのか

 ゼネコン準大手の前田建設工業(以下・前田建と略)は3月13日、グループ会社の前田道路(以下・前田道と略)に対する敵対的TOBの結果、前田道を連結子会社にすると発表した。買い付け上限を上回る応募があり、前田道株2,181万株を861億円で買い付けることが決まった。前田道株の保有比率はTOB前の24%から目標の51%に上昇し、取締役の選任権を得る。連結子会社後も上場を維持する。

 前田建は同日、「協業体制を強化するため、前田道に対し速やかに協業の申し入れを行う」とのコメントを出した。一方、前田道はコメントを出さず、衝撃の大きさを物語っている。

 前田建は力でねじ伏せたが、徹底抗戦した前田道との溝は深い。前田道は経営陣だけではなく労働組合や協力会社も一丸となり、前田建のTOBに反対してきた。はたして、うまくいくのだろうか。

叔父と甥の「近親憎悪」が根底にある

 「前田」の名前がついているが、両社の出自は異なる。前田道は1930(昭和5)年設立のアスファルト舗装工事の草分けである高野組(その後、高野建設に商号変更)。62(昭和37)年に会社更生法を申請した際、事業管財人に就任したのが前田建だった。更生手続きは終結。68年に高野建設から前田道路へと社名を変えた。

 前田道が前田建に徹底抗戦したのは、元社長・岡部正嗣氏がつくり上げた独立独歩で道路舗装の王者を争うプライドがある。株式時価総額は前田道が前田建を上回っており、「親会社なにするものぞ」という反骨心があった。

 岡部氏は92年、前田建設の副社長から前田道路の副社長に転じ、94年に社長に昇格した。岡部氏が社長に就任した94年はバブル崩壊で建設業が不況に突入した頃だ。岡部氏は「1人も辞めさせない」と宣言して乗り切った。これで社員の信頼を勝ち取る。前田道が今もなお「岡部道路」といわれるゆえんだ。

 前田建と前田道の大喧嘩は、甥と叔父の「近親憎悪」とみる向きは多い。前田建の前田操治社長は、2代目前田又兵衛氏の長男。16年、社長に就いた時、創業家本家への大政奉還と言われた。一方、岡部正嗣氏は2代目前田又兵衛氏の娘婿。操治氏と岡部氏は、義理の甥と叔父の関係だが、およそ、仲が良いとはいえなかった。

 ゼネコンでは鹿島や大林組が傘下の道路舗装会社を完全子会社化した。前田建も前田道への関与を強めてきたが、抵抗したのが岡部氏だ。前田道は、岡部体制で独立を維持した。

 「防波堤」の役割をはたしていた岡部氏が1月9日に死去。岡部氏の葬儀は1月19日に行われた。その翌日の20日、前田建は前田道にTOBを提案した。“目の上のたんこぶ”が亡くなり、前田建の創業家の御曹司、前田操治社長は、一気に勝負に出た。岡部氏の死去と同時に、買収を仕掛けてきた前田建に対して、前田道は猛反発。泥沼の抗争にエスカレートしていくことになる。 

影の主役は物言う株主たちだ

 前田建と前田道には前哨戦がある。プレーヤーは物言う株主たち。彼らにとって、親子上場の会社はメシの種である。政府は19年6月に閣議決定した「成長戦略実行計画」のなかで、上場子会社のガバナンスのあり方を示す指針を公表した。親子上場解消は、政府からお墨付きを得た。その「錦の御旗」を活用しない手はない。

 英資産運用会社シルチェスター・インターナショナル・インベスターズは前田道株の10%強を保有し、10年以上にわたって前田建との資本関係を解消したほうが、前田道の企業価値は上がると指摘していた。昨年10月にも同様の提案をしたが、前田道が「前田建のTOBを誘発しかねない」と腰が引けたという。

 香港の投資ファンドであるオアシス・マネジメントは19年5月、日本に集中投資する新ファンドを立ち上げた。オアシスは建設株をターゲットにして前田建と前田道の両社の株式を5%未満保有する。そして、仕掛けた。

 オアシスは前田建に前田道との資本関係の見直し、つまり親子上場解消を求め、前田道には株主還元などを要求した。

 前田道が公表した文書によると、昨年12月4日に「アクティビストによる前田道へのTOBを阻止する」との理由で前田建からTOBの提案があったことを明らかにしている。

 前田道と前田建の両社の株式であるオアシスが前田建と面会した際、オアシスが前田道にTOBを行った場合に前田建はどうするかを聞かれたことがある。前田建が対抗TOBをすれば、オアシスは保有株を高値で売ることができるからだ。

 前田建は、オアシスの狙いを阻止するために、前田建が先んじてもTOBをした方がよいと説明した。前田道は、この提案を断った。

 前田建は年が明けた1月20日、前田道の株式の51%取得を上限に公開買い付け(TOB)を始めた。TOB価格は1株3,950円。ここから、両社の抗争の火ぶたが切って落とされた。

(つづく)
【森村 和男】

(後)

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