2024年12月28日( 土 )

COVID-19感染拡大の裏で進む、より深刻な脅威の数々(前)

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国際未来科学研究所代表 浜田和幸

 昨年末に武漢から発生したとされる新型コロナウイルス(COVID-19)は瞬く間に世界を席巻してしまった。ヨーロッパではイタリアを筆頭にフランスやスペインでも感染者や死者が激増している。フランスのマクロン大統領は「これは目に見えない敵との戦争だ」と語気を強め、ドイツのメルケル首相は「感染の恐れが高まった」ことを理由に、「当面は自宅で仕事に取り組む」と発表、国民にも自宅待機とテレワークを勧告。

 当初は「たいした問題ではない。暖かくなれば、じきに終息する」と高を括っていたアメリカのトランプ大統領も3月13日には、前言を翻し、非常事態宣言を発することになった。ニューヨーク市では飲食店や劇場まで、すべて営業停止の命令が出された。感染拡大の原因となるクラスターを防止するためだが、雇用解雇が急増し、失業率は戦後最悪のレベルに達する懸念が出ている。全米レストラン協会によれば、「飲食業だけで500万から700万人が職を失う」とのこと。

 マスクをはじめ物不足や買い占めが横行し、犯罪の多発が懸念されるため、各地の銃砲店には護身用の銃や弾丸を買うために長蛇の列ができる有り様だ。首都ワシントンに隣接するメリーランド州のバルティモア市では犯罪が急増したため、ついに米軍が出動し、治安維持にあたるという非常事態に突入。

 その裏には「パンデミック対策を最優先させるため、よほどの犯罪でなければ警察も対応しなくてもよい」とか「刑務所内で感染が広がる恐れがあるため、囚人230万人を軽犯罪者から順番に保釈する」との通達が影響しているようだ。イランでは刑務所から8万5,000人が保釈されているが、アメリカでも同様の対応が始まる模様だ。

 何しろ、アメリカは世界最大の刑務所収監人口を誇る犯罪大国である。いくら刑務所がクラスター化するのを防ぐためとはいえ、犯罪者を次々に釈放するのは恐ろしい限りだ。一般市民が自己防衛のために銃を買い漁るのも無理はない。都市によっては「銃砲店の営業停止」措置も発令されているが、その分、ネット販売では銃の売上が急増している。

 いずれにせよ、アメリカではトランプ大統領の根拠のない強気な発言とは裏腹に、医療や保健衛生の専門家が集まり、政府としてのパンデミック対策を早い段階でまとめていた。それは「米国政府によるCOVID-19対応計画」と題され、今回の病原菌の発生から世界に拡散していった過程を分析し、今後の展開を冷静に分析、予測したうえで、政府としての取るべき対策を明示したものである。

 100ページを超える詳細な内容であるが、最も重要な指摘は次の3点であろう。第一が「急速な拡大によって対応はゴテゴテになるだろう」。第二は「パンデミックは18カ月か、それ以上の長期にわたり、その間、感染者の発生数の増減にはいくつもの波が起こる」。第三は「COVID-19の拡散範囲と深刻さの度合いに関しては予測することも特徴を特定することも難しい」。

 それだけ対応の困難さが想定されるパンデミックというわけだ。アメリカ国内でも相当数の死者が避けられず、経済も壊滅的な被害を受け、社会不安から犯罪が急増するとの指摘に、さすがのトランプ大統領も緊急事態との認識に傾いたと思われる。トランプ大統領の経済顧問を務めたハセット氏曰く「コロナウイルスの影響で首切りの嵐が吹き荒れ、3月だけで100万人が失業するだろう」。

 全米最大のショッピングモールを経営するサイモン不動産は各地のショッピングモールや小売業店舗をすべて閉鎖する決定を下した。各州の失業保険給付の窓口はパニック状態になっている。デトロイトの3大自動車メーカーもアメリカ国内の工場はすべて閉鎖に追い込まれた。世界最大の航空機メーカーのボーイングは倒産の危機に瀕しており、政府の救済がなくては立ちいかない模様である。

 要は、世界最大の経済大国が奈落の底に転落する瀬戸際に追い込まれたといっても過言ではない。これではトランプ大統領の再選は至難の業であろう。追い詰められたトランプ大統領は「諸悪の根源は中国だ。発生の実態を隠蔽し、世界への拡散を食い止める機会が失われた」と、責任転嫁に走っている。

 とはいえ、「転んでもただは起きぬ」のが破産倒産を何度も潜り抜けたトランプ氏である。今回も、非常事態宣言を発した裏側で、しっかりとファミリー・ビジネスのチャンスを手にしようと動いている。何かといえば、新型コロナウイルス対策のワクチンと特効薬の開発である。潤沢な政府資金を娘婿のクシュナー氏の関係する製薬会社に流し込もうという算段に他ならない。

 特効薬をめぐっては、中国企業はいうにおよばず、ドイツや日本の製薬メーカーもしのぎを削っている。もちろん、アメリカ企業も例外ではない。そんな中、トランプ大統領はCOVID-19対策チームを立ち上げ、ペンス副大統領を責任者に指名した。しかし、それとは別にクシュナー氏をトップとする「シャドー対策本部」の設置も認めたのである。クシュナー氏曰く「緊急時には政府機関や役人では対応が遅い。民間のエキスパートを集めて、早急な感染防止策を打ち出す」。

 その結果、現場では混乱が生じている。ペンス副大統領からの指示を優先すべきか、それとも大統領の娘婿で大統領の上級補佐官を務めるクシュナー氏のいうことを優先すべきか。大方の反応は、もちろんクシュナー氏である。いつでも、どこでもトランプ大統領に口を利けるのは娘婿の強みであり、そのことはホワイトハウス内で知らない者はいないからだ。

(つづく)

(中)

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