2024年11月20日( 水 )

「天網恢恢疎にして漏らさず」~最終的には東京五輪は中止?(4)

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 先日のIOCトーマス・バッハ会長の発言「東京五輪は予定通り」(3月3日)から一転して、3月25日には「東京五輪は1年程度延期する」ことが正式決定した。一貫して人道的立場から「東京五輪」開催に警鐘を鳴らし続けてきた、村田光平元駐スイス大使・東海学園大学名誉教授に聞いた。村田氏は「最終的には東京五輪は中止になるのではないか」と危惧する。それはなぜか。

 一方、今SNS上で、漫画『AKIRA』(大友克洋著作で1982年~1990年にかけて講談社の漫画雑誌『週刊ヤングマガジン』に連載)の話題が沸騰している。同漫画の1シーンのなかに「東京オリンピック開催迄あと147日」(今年2月28日に相当)という大書された看板が登場、そのすぐ下には黒い文字で「粉砕」、白い文字で「中止だ 中止」と書き込まれているからだ。『AKIRA』は、その高い予言的中率から、欧米の科学者などに隠れたファンが多いことで有名である。

元駐スイス大使・東海学園大学名誉教授 村田 光平 氏 

倫理と連帯に立脚し、環境と未来の世代の利益を尊重する

 ――先生の約20年前に書かれた名著2冊が、最近相次いで電子書籍化され、アマゾンの人気ランキング上位に顔を出し、多くの読者に読まれています。

 村田 1作目の『新しい文明の提唱-未来の世代へ捧げる-』(文芸社)は2000年に出版され19年に電子書籍化されました。多くの読者に読んでいただき、とても嬉しく思っております。また、反響の一環として、ある大手商社の中国支店長からは在日の中国系出版社をご紹介いただきました。私は「未来の世代の代表」を名乗り、市民社会の一員としての立場を踏まえて、幅広い講演活動を行い、こうした考えを訴える機会に恵まれました。

 この本では国内外の数多くの有識者と意見交換を行うことを通じて「市民社会と政府が協力することによって補完し合う」ことがいかに重要であるかを説かせていただきました。

 今日、人類が直面する危機は「文明の危機」であります。金融危機でも経済危機でもありません。その真因は倫理の欠如です。未来の世代に属する天然資源を乱用し枯渇させること、そして恒久的に有毒な放射性廃棄物および膨大な債務を後世に残すことは倫理の根本に反します。地球倫理の確立は、母性文明の創設の前提条件となります。この新しい文明は、倫理と連帯に立脚し、環境と未来の世代の利益を尊重する文明と定義できます。その達成のためには3つの転換が必要です。自己中心から連帯へ、貪欲から少欲知足へ、そして物質主義から精神主義への転換です。このような文明であれば、必要なエネルギーは自然・再生可能エネルギーで十分得られることは疑いがありません。ただし、過渡期においては化石燃料による補充が必要です。人類そして地球の長期的安全のために、原子力エネルギーを使用しない生活様式を取り入れて短期的犠牲を払う覚悟が必要です。

 2冊目の『原子力と日本病』(朝日新聞社)は02年に出版され、20年に電子書籍化されました。ここでは「日本病」が世界に蔓延していることを訴えました。

 私は日本病を責任感、正義感、倫理観の「三カン欠如」と分析しています。

 1.「責任感の欠如」:責任の所在の欠如とも言い表すことができます。何か問題が起きたときに、何処に、誰にその責任があるのか。何か事を起こすときに、何処が責任をもって行うのか、それが曖昧なことが多いのです。
 2.「正義感の欠如」:これが端的に見られるのは経済の分野です。経済至上主義の基となるGDP経済学は計量化されるもののみに立脚する経済学で、計量化されない大切な価値などを一切無視します。手段であるはずの経済成長が目的になってしまっています。そこには「倫理」や「哲学」が入る余地はありません。
 3.「倫理観の欠如」:最も重要な概念です。倫理とは「人として踏み行うべき道」のことを言います。原発を推進することは「人として避けるべき道」であるということです。

天災超大国の日本では再稼働の緊急停止、原発ゼロは常識

 ――時間になりました。最後に読者にメッセージをいただけますか。

 村田 今、地震が頻発しております。天災超大国である日本の原点に立ち戻れば、原発再稼働の緊急停止、原発ゼロは当たり前のことです。コロナ禍に原発過酷事故が重なれば、日本国家の崩壊すら憂慮されます。『Fukushima 50』をご鑑賞いただいた多くの読者の皆さまにはご理解いただけると思いますが、福島原発事故処理への対応に全力投球するためには、「東京五輪」中止(返上)の決断が必要です。また世界は「緊急事態宣言」下(放射能が存続する状態)にある「東京五輪」など、最終的には決して認めないと確信しております。

 老子の言葉「天網恢恢疎にして漏らさず」にあるように、「倫理や道徳」に反する行為には必ず天罰が下る、不心得者は罰せられると信じているからです。

(了)

【金木 亮憲】


<プロフィール>
村田 光平
(むらた みつへい)
 1938年東京生まれ。61年東京大学法学部を卒業後、2年間外務省研修生としてフランスに留学。その後、分析課長、中近東第一課長、宮内庁御用掛、在アルジェリア公使、在仏公使、国連局審議官、公正取引委員会官房審議官、在セネガル大使、衆議院渉外部長などを歴任。96年より99年まで駐スイス大使。99年より2011年まで東海学園大学教授。
 現在、(公財)日本ナショナルトラスト顧問、日本ビジネスインテリジェンス協会顧問、東海学園大学名誉教授、天津科技大学名誉教授。
 著書に『新しい文明の提唱‐未来の世代へ捧げる‐』(文芸社)、『原子力と日本病』(朝日新聞社)、『現代文明を問う』(日本語・中国語冊子)など。

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