今も収束していない福島原発事故~再爆発防止の応急措置が続く(前)
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元京都大学原子炉実験所助教 小出 裕章 氏
もはや過去の出来事のように言われている福島第1原発事故。しかし今でも収束しておらず、これ以上爆発が起こることを防ぐ「応急措置」が続いている。今、福島原発では何が起こっているのか。断片的にしか情報が伝えられていない放射能汚染の実態とは。これから日本はどうしていくべきなのか。福島原発事故の全貌と今後の展望を、元京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏に聞いた。
水で冷やし続けてかろうじてしのぐ福島原発
――2011年3月の東日本大震災の事故から9年が経ちます。福島第1原子力発電所(以下、福島原発)では今、何が起こっているのでしょうか。
小出裕章氏(以下、小出) 東日本大震災時のような爆発が起こることを応急措置で防いでいて、事故そのものはほとんど収束していないのが実態です。 東日本大震災の時、福島原発の全4基のうち、1~3号機は運転中でした。原子炉圧力容器には核燃料のほかに、核燃料から発電した後に残る放射能の高い残留物(放射性残留物)が溜まっています(図1)。
原子力発電を止めても原子炉を水で冷やし続けなければ、放射性残留物は発熱し続けます。原発が発電のためにつくる約300万kWの熱のうち約21万kWは放射性残留物が出す熱から発電されているほど、熱は強力なのですね。ストーブの熱を1kWとすると、ストーブ約21万台分といえばわかりやすいでしょうか。
震災が起こるまでの原発は、電力ポンプを使って原子炉を水で冷やし、熱を制御していました。しかし、地震と津波で原発すべてが停電しました。非常時に電気を届けるはずだった外部送電線も地震で壊れ、電気が届きませんでした。原発は電気をつくる設備だからと、非常用発電機も30分以上停電することはないという想定で準備されていたのです。
停電が続いたため、電力ポンプで水を回して原子炉を冷やすことができなくなりました。放射性残留物から発生した熱で原子炉圧力容器の核燃料が約2,800℃を超えて溶け、鋼鉄製の原子炉圧力容器も1,400~1,500℃で溶けてメルトダウンしました。
1、3号機は発生した水素が最上階で爆発し、建物が倒壊。2号機は、発電所の建物のブローアウトパネル(※1)が地震の衝撃で落ちて水素爆発はしませんでしたが、多量の放射能を放出しました。1~3号機から大気中に放出された放射能は、広島原爆の約168発分と大規模な事故になりました(IAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書、セシウム137の量のベクレル換算)。
4号機は、定期点検で使用済燃料プールに移していて、原子炉に核燃料はありませんでした。しかし空調設備の配管で3号機とつながっていた4号機の配管のダクトが爆発して建物は半分壊れ、使用済核燃料を保管するプールが宙づりのようになりました。使用済燃料プールの水がなくなると、使用済核燃料が熱で溶けて大量の放射能が放出され、東京も住めなくなるため、当時の内閣府原子力委員会委員長・近藤駿介氏が報告し、大変な労力で使用済燃料プールの水を入れて何とか防ぎました。
原子炉圧力容器から溶け落ちた核燃料は、ペデスタルの床に饅頭のように固まっていると東京電力は想定しています。しかし、ペデスタルの壁に点検用通路が空いているため、核燃料は格納容器のなかに飛び散っていると私は考えています(図2)。2017年2月に2号機の内部調査を行ったところ、原子炉格納容器とペデスタルの間は530シーベルト/時とペデスタルのなかの20シーベルト/時よりも放射能が高かったからです(図2)。
(つづく)
【石井 ゆかり】
※1 ブローアウトパネル:圧力を逃がすための窓のように見える装置。^
<プロフィール>
小出 裕章(こいで・ひろあき)
元京都大学原子炉実験所助教。工学修士。1949年8月、東京の下町・台東区上野で生まれる。68年、未来のエネルギーを担うと信じた原子力の平和利用を夢見て東北大学工学部原子核工学科に入学。しかし原子力について専門的に学べば学ぶほど、原子力発電に潜む破滅的危険性こそが人間にとっての脅威であることに気づき、70年に考え方を180度転換。それから40年以上にわたり、原発をなくすための研究と運動を続ける。2015年3月に京都大学を定年退職。現在は長野県松本市に暮らす。著書に『隠される原子力・核の真実─原子力の専門家が原発に反対するわけ』(2011年11月/創史社)、『100年後の人々へ』(2014年2月/集英社新書)、『フクシマ事故と東京オリンピック』(2019年12月/径書房)ほか多数。『フクシマ事故と東京オリンピック【7カ国語対応】
The disaster in Fukushima and the 2020 Tokyo Olympics』
いまだに福島原発事故は収束しておらず、緊急事態宣言は解除されていない。福島原発事故の今を写した心を打つ数々の写真とともに、日本の向き合うべき現実と課題を伝えている。2020年5月下旬にはKindleをはじめ、各種電子書店での電子書籍販売も予定している(小出裕章著、径書房
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