2024年12月23日( 月 )

「中医学」と「感染症」、それは闘争と共存の歴史である!(3)

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 米ジョンズ・ホプキンズ大学の集計によると、新型コロナウイルスによる世界全体の死者は4月13日現在で約11万4千人。国別では米国の死者が、スペイン、イタリアを上回り2万2千人と世界最多となった。米国は感染者数も約55万7千人で最多である。これは、中国全土の感染者約8万2160人、死者約3341人の約7倍に相当する。
 今回の「新型コロナウイルス」騒動を中医学ではどのように見るのか。(社)日本統合医療学園 理事長・学長の吉村吉博薬学博士に聞いた。吉村先生は研究・教育そして臨床のかたわら、中医学の伝道師として年間100回を超える講演を行う。また感染症研究の世界的機関「米疾病対策センター」(CDC)での研究経験がある。

(社)日本統合医療学園 理事長・学長 吉村 吉博 氏

今回新型コロナ対策にいくつかの中医・漢方薬が試されました

 中医学の本場である中国では、新型コロナ対策にいくつかの中医・漢方薬(中国では中成薬と称されています)が試されました。

 感染者はステージによって症状、すなわち「証」が異なります。以下は証別の効果的中医・漢方薬です。参考にして頂ければ幸いです。

正常、もしくは濃厚接触した場合
 「板藍根」(バンランコン)が効果的。板藍根入りの飴も大人気。板藍根はアブラナ科の植物の根を乾燥したもの。中国では、冬の健康維持に欠かせない素材として知られる。

感染したが症状が出ていない場合
 「双黄連口服液」は効果的であるが、日本では入手が困難なので、その類似処方である「銀翹散」(ギンギョウサン)が効果的。

感染者(軽症) 80%
 「銀翹散」と「荊芥連翹湯」(ケイガイレンギョウトウ)が効果的。

感染者(中等症)18%
 「清肺排毒湯」(セイハイハイドクトウ)が効果的。日本では入手困難だが、煎じ薬として処方が可能。

感染者(重症) 2%
 特殊処方(石膏や知母を中心に証に合せて調薬)

 中国における「清肺敗毒湯」の後ろ向きコホート(疫学調査)では、感染者(軽症55%、中等症35%、重症10%)に6日間投与した結果、81%の人に改善がみられました。また投与3日目で87%の人に解熱効果が認められました。当該処方は副作用がなく日本でも用いることが薦められます。

 ちなみに、感染者(中等症)を超えると、現代医学(西洋医学)には治療薬がなく、対処療法として、「人工呼吸器」や「酸素吸入器」、さらに重症になると「体外式膜型人工肺」(ECMO)に頼るしか方策がないのが現状です。

何よりも中国数千年の「実績・結果・成果」が証明しています

 ――現代医学(西洋医学)がわずか数百年の歴史しかないのに比較して、中医学を含めて伝統医学(「アーユルベーダ(インド)」、「ユナニ医学(イスラム)」、「チベット医学(チベット)」など)には数千年の歴史があります。中医学の観点から、現在の私たちが学べる知恵はございますか。

吉村 吉博 氏

 吉村 現代医学が明治維新以後、急速に発展して、これまで数千年にわたり用いられてきた中医学は日本ではマイナーな医学になりました。中医学(漢方薬)は、『黄帝内経』(BC770年)から始まり、『傷寒論・金匱要略(張仲景)』~『神農本草経』~『本草綱目』~『万病回春』~「中国医学の統一化(1949年 毛沢東)」~現在まで長い歴史があります。古くて慢性疾患しか効かないという誤解されたイメージがありますが、疫病(「感染症」を含む)が多かった明治維新までは、中医・漢方薬で治療を行ってきました。

 現代は、「エビデンス、エビデンス」と何かにつけて漢方薬のことを叩く現代医学のドクターもおられますが、私は「温故知新」ではありませんが、歴史や経験をもう少し重んじる必要があると思っています。エビデンスよりも中国数千年の「実績・結果・成果」がそれを証明しているからです。私は常々現在エビデンスがない状態を非科学ではなく、「未科学」(これから証明され科学となっていく部分)と呼んでいます。数千年にわたって行われた試行錯誤は、ある意味では、「科学を超えている」と言えるかも知れません。

(つづく)

【金木 亮憲】

【中医学】数千年という長い歴史に裏付けられた、中医薬学理論と臨床経験に基づく中国伝統医学、いわゆる「中国漢方」のことを言い、「日本漢方」とは一線を隔している。日本漢方は中国からの影響は『傷寒論・金匱要略(張仲景)』(414年)の時代(レベル)で止まり、鎖国を経て、現代医学(西洋医学)の影響も一部では受けながら、今日まで独自の道を歩んできた。

【証(しょう)】中医学の治療指針となるべくもので、西洋医学で言うところの病名(診断名)に相当するものである。一般的に証は弁証といわれる、脈診、問診、触診などから導き出され、病の状態を現す。中医学では、この方法によって導き出された証に基づき鍼灸・漢方薬の治療方針を決定する。からだが病気とどんな闘い方をしているかをみて、その時のからだの状態(体質、体力、抵抗力、症状の現れ方などの個人差)などの観点から診断する。


<プロフィール>
吉村吉博氏(よしむら・よしひろ) 

 日本統合医療学園学長、星薬科大学大学院博士課程修了、星薬科大学助教授、日本薬科大学漢方薬学科教授、アメリカ合衆国疾病対策センター(CDC)にて研究、漢方吉村薬局顧問、東京農業大学・東京家政大学・星薬科大学非常勤講師。
 著書として『中医漢方医学の基礎』、『中医漢方医学の生薬と処方』、『中医漢方医学の治療と症例』、『予防は最大の治療なり』、『登録販売者攻略テキスト』、『登録販売者根底300題』(以上、日本統合医療学園)『基礎薬学(必須講座薬剤師国家試験対策)』(日本工業技術連盟)、『分析化学〈2〉』(南江堂)、『わかりやすい機器分析化学』(広川書店)他多数。メディア出演として「発掘あるある大辞典」(フジテレビ系)、読売新聞、日刊ゲンダイ他多数。

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