数字、定義、根拠不足の新型コロナウイルス報道 「お化けの恐怖」に振り回される日本
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新型コロナウイルスが世界を恐怖に陥れ、社会システムを崩壊に導こうとしている。筆者にとって最大の失望は、NYCにおける国連軍縮会議でのNPT50検討会議で4月25日に予定されていた報告イベント「憲法九条と核兵器廃絶」が延期されたことである。本稿は「新型コロナウイルスは安全だ」と主張するものではない。現下の大混乱を憂い、あふれかえる情報の中から入稿時点(4月21日)で得られた公開情報・データに基づき、あくまでも「正しく恐れる」ことをお薦めする私見である。
まずは事実を確認し、定義すること
昨年12月に中国・武漢で発生、今年の1月23日に武漢閉鎖。そこから突如、世界中に拡大した新型コロナウイルス・パニック。あえて「パニック」と断じる理由は、筆者が1973年の石油ショック時に経験した「トイレット・ペーパー買い占め騒動」を直ちに連想するからだ。この悪夢がよみがえってコロナ騒ぎに重なり、憂鬱さがいや増しになっている。
今回のコロナ騒ぎでテレビや新聞に多くの医療専門家が登場しているが、見解や解説が皆それぞれ違うように感じる。すなわち「新型」が未知ゆえに、恐怖が増幅される所以である。筆者が当初より疑問に思っているのは、なぜ「感染者(数、確率)」のみが騒がれるのか、ということだ。まず「感染≠発症(軽症、重症)≠致死」と理解しよう。それぞれの定義および推移を明らかにせねばならない。我々市民が最も恐れるのは〈致死〉の部分であるに違いないのだから。
「恐れおののく」根拠はあるのか
そこで、日本における年間死亡数について点検してみよう(出所/厚生労働省「2018年人口動統計」)。
1位は悪性新生物(腫瘍)の37万3,584人、2位:心疾患は20万8,221人、3位:呼吸器系の疾患は19万1,356人(うち、肺炎9万4,661人、誤嚥性肺炎3万8,460人、インフルエンザ3,325人)。以下、4位:老衰10万9,605人、5 位:脳血管疾患10万8,186人、6 位:不慮の事故(交通事故など)4万1,236人と続く。
このうち、注目すべきはインフルエンザでの死亡者数「3,325人」だ。新型コロナウイルスについては4月20日現在の死亡者数が263人(感染者は1万1,153人)と発表されている。単純に素人計算をすれば、年間で1,000人に達しない。これをもって「恐れおののく」根拠となろうか。ちなみに、日本での人口10万人あたりの死亡者数は0.04人。イタリアは17.79人、スペイン15.64人だ。
ナイトの不確実性論
筆者は医療を語ることはできないが、ここで想起するのは経済学で有名な「ナイトの不確実性」論である。シカゴ大学教授・フランク・ナイトはその著書『Risk, Uncertainty and Profit(危険・不確実性および利潤)』で、確率によって予測できる「リスク」と、確率的事象ではない「不確実性」を明確に区別し、「ナイトの不確実性」と呼ばれる概念を構築した。
筆者の解釈を含めて言えば、そこには3つの段階がある。1つ目はある状態を特定、分類することが不可能な「推定」。「お化けが出てくる」ごとき恐怖が恐怖を呼ぶ。2つ目はたとえば「2つのサイコロを同時に投げるとき、目の和が7になる確率」というように、数学的な組み合わせ理論に基づく先験的確率。そして3つ目はたとえば男女別・年齢別の平均余命のように、経験データに基づく「統計的確率」である。
その確率(エビデンス根拠)がわかると「リスク(=予知でき、対策も考えられるもの)」となる。ここから、先物相場、株式・不動産投資などをはじめ各種ビジネスが発生した(余談ながら、ナイトは米国による広島、長崎への原爆投下を強く非難し、その犠牲孤児を養子としている)。
根拠のない施策に振り回される日本
このようなエビデンスが、なぜ専門家やメディアの手によって分析され、明らかにされ、わかりやすく市民の前に提示されないのか。それらがあって初めて政策や対策が可能となるはずだ。それらがないゆえにパニック状態が増幅し、市民生活や社会システムが壊滅的な被害を受けるという事態は憂慮に堪えない。
厚生労働省のデータに基づき東洋経済社が纏めたという死亡者グラフがあるが、ことに「年齢別」データは注視に値する。顕著な傾向として、若年層についてはほとんど死亡者、発病者(軽症、重症)がいない。
そうであるならば、未来を担う若き人々への教育を考えると、現政権の政策、突如の「全国一斉休校」は一体どのような根拠に基づいたものだったのか。壮年層(働き盛り)も同様。Lock Down(「都市封鎖」とは訳せない英語)と称し、はたまた緊急事態宣言を発令してあらゆる産業やビジネスを麻痺させている。
WHOが「効果なし」と断じたマスクを全国民に配布する、マスク姿の閣僚や国会議員がTVを通じて家庭の団欒(だんらん)に入り込む――この唐突なおどろおどろしい光景がナイトのいう恐怖心を増幅する。4月15日には厚生労働省の新型コロナクラスター対策班の西浦博教授が、「人と人との接触を8割減らさないと、85万人が重症になり、42万人が死亡する」と発表した。こうしたおどろおどろしい姿や光景こそ、ナイトが喝破した「お化けの恐怖」だ。もちろん、医療の専門家でない筆者が「新型コロナウイルスは安全だ」と主張する資格はない。ただし、政府はきちんとエビデンスに基づく検討と施策を行うべきであるし、市民側もそれに基づき「正しく恐れる」べきなのだ。
苦境のなかでこそ気品を忘れずに
歴史書によれば、人類と細菌・ウイルスとの戦いは有史以前からあり、それらは大航海時代など国境を越えての移動時=グローバル化に顕著とのこと。21世紀の今、もはや世界はグローバル化を逆戻りすることはできない。
改めて日本の風習を考えると、ハグやキス、握手は少ない。家に入るときは靴を脱ぐ(最近のニュースでは靴底がウイルスを運ぶという情報もある)、手洗いやうがいを励行する。こういった生活習慣(=文化)が、公衆衛生を高めている可能性もある。従来言われてきた文化などの魅力度が、武器や戦力でない日本のソフト・パワー(J. Nye)なのだ。これは決して、無批判な「日本スゴイ」的自画自賛ではない。
神ならぬ身の知る由もなし、一寸先はわからない。一部専門家や関係者が予測している「和製」英語、オーバーシュート(Over Shoot=感染爆発)が不発に終わることを祈ろう。ヘミングウェイのことばを噛みしめながら。
Courage is grace under pressure.〈勇気とは、困難なときにみせる気品のこと〉
【国際ビジネスコンサルタント/浜地道雄】
〈プロフィール〉
「9条の価値・核兵器廃絶」を国連でアピールへ
1965年(S40)、慶応義塾大学経済学部卒業。同年、ニチメン(現双日)入社。石油部員としてテヘラン(イラン)、リヤド(サウディアラビア)駐在。1988年(s63)、帝国データバンクに転職。同社米国社長としてNYCに赴任、2002年(h14) ビジネスコンサルタントとして独立。現在、National Geographic/Cengage Learning kk, Project Consultant
EF Education First Japan, Senior Advisor(ノーベル博物館のスポンサー。世界最大級の国際教育事業)関連キーワード
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