【鮫島タイムス別館(39)】石破首相退陣めぐる世論のねじれ 与野党支持層と世代間の断絶
石破おろし加速と「居座り」の口実
自民党総裁選が9月に前倒しで行われる可能性が高まり、石破茂首相の退陣は不可避な情勢だ。ところが最新世論調査では「続投」を求める声が「退陣」を上回っている。「石破おろし」が加速する自民党内と「石破擁護」の国民世論の間にねじれが生じ、石破首相に「居座り」の口実を与えている。
昨秋の衆院選、今夏の参院選で相次いで石破首相に不信任を突きつけた国民世論が、一転して「辞めるな」と激励する珍現象。自民党内でポスト石破に浮上している高市早苗氏や小泉進次郎氏よりは石破首相のほうがマシということらしいが、それにしても前代未聞の事態。この現実をどう受け止めたらよいのか。
世論調査をつぶさに分析すると、ねじれた世論の正体が見えてくる。参政党と国民民主党が躍進した参院選後の日本社会は、支持政党と世代間の対立によって、真っ二つに分断されたのだ。
NHKが8月12日に報じた世論調査では、石破続投に「賛成」は49%、「反対」は40%だった。与党支持層の68%が「賛成」し、野党支持層の55%が「反対」している。
この数字だけみると「石破擁護の与党vs石破退陣の野党」の対立構図が浮かんでくるが、そう思い込むのは早計だ。今の野党は立憲民主党、国民民主党、参政党の支持率が拮抗し、一口に「野党支持層」と言っても内実は千差万別なのだ(NHK世論調査によると、政党支持率は国民7.1%、立憲6.9%、参政6.8%)。
TBSが同じ日に報じた世論調査でも、「辞任不要」は47%で「辞任すべき」の43%を超えた。ただし政党支持別では衝撃の結果が出ている。自民支持層の65%が「辞任不要」と答えたのは想定内としても、なんと立憲支持層の63%が「辞任不要」と答えたのである。
野党支持層全体では「辞任すべき」が多いのに、立憲支持層では「辞任不要」が圧倒している。参院選で躍進した国民や参政の支持層は「石破退陣」を求め、立憲支持層は「石破擁護」に回っている――そんな野党支持層間の深い断絶ぶりがくっきり浮かんでくるのだ。
野党内にも広がる断絶と、世代別分断
今や立憲支持層は国民や参政の支持層と真っ向から衝突し、むしろ自民支持層にシンパシーを寄せている。参院選で敗れた石破首相と立憲の野田佳彦代表が国会質疑で意気投合し、追い詰められた現状を打開する「ヤケクソ大連立」に踏み切るのではないかという警戒感が永田町で広がっているが、自民・立憲の支持層の動向をみれば、二大政党の急接近は当然の帰結といえるだろう。
「自民・立憲vs国民・参政」という政界の新たな対立軸は、世代別の政党支持率を見れば、より鮮明になってくる。
NHK世論調査の世代別の政党支持率をみてみよう。世代ごとに自民、立憲、国民、参政を順位づけすると、衝撃の結果が見えてくる。
80歳以上 ①自民50.7 ②立憲11.3 ③国民0.5 ③参政0.5
70代 ①自民35.8 ②立憲11.8 ③国民5.1 ④参政2.4
60代 ①自民29.0 ②立憲 7.4 ②参政7.4 ④国民6.0
50代 ①自民23.3 ②参政10.7 ③国民8.8 ④立憲3.8
40代 ①自民14.1 ②参政12.5 ③国民11.7 ④立憲0.8
39歳以下 ①国民19.4 ②参政16.1 ③自民10.5 ④立憲2.4
自民と立憲の二大政党が70歳以上の高齢世代に支えられているのは一目瞭然だ。逆に国民と参政は80歳以上の支持率が0.5%しかないことに象徴されるように、高齢世代には強く敬遠されている。
一方、自民と立憲の支持率は50代以下の現役世代ではぐんぐんと落ちていく。立憲の40代支持率が0.8%しかないのは象徴的だ。逆に参政は40、50代では自民に続く2位に浮上している。立憲は現役世代では国民と参政に大きく引き離され、もはや野党第一党の面影はない。
39歳以下の若者世代になると、国民が1位、参政が2位に躍り出て、自民は3位に転落する。現役・若者世代では、自民・立憲の二大政党制はとっくに終焉しているのだ。
自民・立憲は高齢世代に支えられた政党。
国民・参政は現役・若者世代に支えられた政党。
世代間対立を煽ってはいけないとどんなに言われても、もはやこの世代間ギャップは覆い隠しようがない。
この世代間の政治意識の断絶から目を背けていたら、政治ジャーナリズムは成り立たないはずだが、テレビや新聞のオールドメディアがこの点をあえて強調しないのは、現役・若者世代からは見向きもされず、高齢世代の視聴者・読者に支えられているからだろう。
この世代間対立に、石破首相の進退をめぐる賛否を重ねると、ねじれた国民世論の正体に気づくはずだ。
自民・立憲の支持する高齢世代が石破続投を唱えている。
国民・参政を支持する現役・若者世代が石破退陣を求めている。
この支持政党・世代間の深刻な対立こそ、世論調査で「石破続投」の賛否が伯仲している最大の要因だ。
日本社会を大きく分断している「世代間対立」の実像をまずは直視しない限り、私たちはその処方箋を見つけることはできない。
【ジャーナリスト/鮫島浩】
<プロフィール>
鮫島浩(さめじま・ひろし)
1994年に京都大学法学部を卒業し、朝日新聞に入社。99年に政治部へ。菅直人、竹中平蔵、古賀誠、町村信孝、与謝野馨や幅広い政治家を担当し、39歳で異例の政治部デスクに。2013年に原発事故をめぐる「手抜き除染」スクープ報道で新聞協会賞受賞。21年に独立し『SAMEJIMA TIMES』を創刊。YouTubeでも政治解説を連日発信し、登録者数は約15万人。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)。
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