令和ニッポンの青写真を描け~第12回白馬会議報告(4)
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白馬会議運営委員会事務局代表 市川 周 氏
令和の始まりはどことなく明るいムードが漂っていたが、新しい時代を切り拓く明確なビジョンが示されたわけではない。『平成時代』(岩波新書)で吉見俊哉氏(東京大学教授)が「平成」は失敗の博物館と書いていたが、「失敗は成功のもと」だ。「西のダボス、東の白馬」を目指して2008年に創設した白馬会議。昨秋12回目を迎え、「令和ニッポンの青写真を描け!」(11月23~24日開催)をテーマに、北アルプス麓のシェラリゾート白馬で激論、熱論に突入した。白馬会議運営委員会事務局代表の市川周氏が自らの言葉で、白馬会議にかける思いを語る。
南海トラフ地震は「事前復興」が不可欠
令和ニッポンの青写真づくりをめぐり、ウエークアップスピーチや夕食後のナイトトークでも注目すべき発言が続いた。
南海トラフ地震に立ち向かい、四国各地の自治体関係者とともに「減災科学」に挑戦する金田義行氏(香川大学特任教授)。金田氏によると、南海トラフの死者予測は32万3,000人(2012年内閣府発表)、最近の予測では9万人減って23万3,000人(2019年5月内閣府推計)だが1,410兆円の被害(2018年土木学会推計)が想定されている。これを単純に20年間で割ると70兆円で、少し前の日本国の一般会計の予算規模だ。これを毎年のように負担をすると、日本はアジアの最貧国にならざるを得ない。
では、どう立ち向かったらいいのか。避難することだけを考えるのは不十分だ。災害前からいろいろな備えが必要だ。「南海トラフ地震で沿岸部が被災した時に備えた代替手段として、中山間部地域の活用体制を今から準備すべきだ」と金田氏はいう。この課題に向けては、「南海トラフ地震で想定される被害に向けて、県内の対象地域を事前につくり変えておく『事前復興』を公共インフラ事業として進めている」という徳島県庁から参加している坂東淳氏の報告があった。
ヴィクトル・ユーゴー氏の「未来という言葉は、いくつかの名前がある。愚者にとっては不可能、臆病者にとっては未知、だが賢者にとっては理想となる」という言葉を金田氏は挙げた。未来の青写真づくりは、強烈な危機感と燃えるような理想が合体したところから生まれて来るのかもしれない。
原発と日本人のコモン・センス
東京電力の福島第一原子力発電所の事故後、既存の原発(関西電力大飯原発)の再稼働に対して、初めて運転差し止め判決を下した樋口英明元福井地裁裁判長がナイトトークに登場した。原発裁判では時として科学論争が行われ、裁判官は専門家のつじつまに合わせて無難な判断(要するに現状維持の判断)をしがちだと樋口氏はいう。しかし、大事なのは道理にかなった合理性であり、単に前後のつじつまが合えば合理的というものではない。裁判所は、主張の優劣ではなく、道理にかなっているか、どういう理念であるかを示し、そこに合致しているかどうかを判断しなければならない。原発の道理とは「福島原発のような過酷事故は、もう二度と起こしてはならないこと」だと静かな口調で樋口氏は熱弁した。
不思議な連想だが、樋口氏の議論はアメリカの独立戦争を勝利に導いたトマス・ペイン氏の『コモン・センス』を思い出させた。アメリカ国民に対してペイン氏は、「アメリカ大陸はイギリスという島にいつまで従属するのか。まるで、自分より小さな惑星に衛星のごとく振り回される大きな惑星のようだ」と説いた。樋口氏がいう道理・理念、すなわちアメリカ独立を「コモン・センス」、新しい常識として自国民に喚起した。
令和ニッポンの青写真づくりをめぐり、白馬会議ではさまざまな問題提起がなされ、葛藤の連続であった。この葛藤を前向きな力でダイナミックに整理するのが、令和ニッポンの未来に託す我々自身の道理であり、「コモン・センス」だろう。「コモン・センス」として新しく生み出す共通の感覚を、1つひとつ明確にしていくことがこれからの白馬会議に課せられた使命だ。
クリックサイクルと「コロナ・ショック」
白馬会議の総括では、小島明氏(政策研究大学院大学理事・元日経論説委員主幹)が米国エコノミストのロバート・フェルドマン氏が日本人に警告する「クリック(CRIC)サイクル」に言及した。最初に危機(Crisis)が生まれると、とりあえず反応(Response)して多少は改善(Improve)されるが、安心してしまい怠慢(Complacency)になり、結局は、危機が生まれる構造自体が変わらないまま、次の危機がやって来る。
「令和に入って一時的に明るい話が増えたように見えるが、なにも変わってない。問題は先送りされたままで、また同じような危機が起こる『クリックサイクル』が続いている。だからこそ、平成元年に亡くなった松下幸之助氏の残した言葉、「やってみなはれ」に思いを馳せて、リスクを恐れずに「平成失敗博物館」の大胆な解体作業に着手すべし」と小島氏は檄を飛ばした。
昨年11月下旬、我々が12回目の白馬会議の議論をしている最中に中国大陸では新型コロナウイルスがすでに活動を始めていた。このウイルスがもたらす「コロナ・ショック」は、かつての石油ショックやリーマン・ショックのように大胆な改革をせずに「クリックサイクル」で対応できるレベルをはるかに超えたものになるだろう。今秋の13回目の白馬会議では、この問題を徹底的に検証し討議してみたい。
(了)
※詳細報告書とダイジェスト動画を白馬会議のウェブサイトに掲載。
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