2024年12月23日( 月 )

【イタリア】新型コロナ、世界のロックダウン長期化で変わる農業

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ
日伊経済連合会 ディサント・ダニエレ会長 

 欧州の中でも最初に、新型コロナウイルス感染症の急激な拡大に直面したイタリア。この緊急事態は、消費者の消費傾向や食習慣に大きな変化をもたらし、生産者に直接的な影響を与え、農業にも新たな課題をもたらしつつある。

 感染拡大を阻止するために、イタリアだけでなく、欧州各国で厳しい外出制限や営業制限がかけられたことにより、家庭の備蓄食材需要が急激に増加。パスタ、米、小麦粉や保存食、そして果物、野菜などの日常の食材の需要を高めている。

 その一方で、HORECAビジネス(ホテル・レストラン・カフェなどの飲食事業)の閉鎖による流通チャンネルの消滅により、高級肉、ワイン、希少なチーズなどの高価格帯製品の市場は縮小している。

 イタリア最大の農家、食品生産者や観光事業者による団体の一つであるイタリア農業連盟(CIA)のセコンド・スカナヴィーノ会長は、新型コロナウイルスの危機下でイタリアや欧州の農家が直面する課題の解決に尽力しており、「イタリア・日本が共にこの危機を乗り越えた後に、イタリアの友好国である日本の消費者が、また前と同じようにイタリアの美味しい食材や料理を楽しんでくださるよう尽くしたい」と語る。

イタリア農業連盟(CIA)
Secondo Scanavino 会長

 「イタリアの農家は、衛生管理に細心の注意を払いながら、目下、農産品を市場に供給することに力を尽くしている。日本とは両国間の食文化の交流を通して今後も友好関係を強めていくことができることを確信している。まずは、できるだけ早く両国ともに、この危機下から脱却し、以前のように自由な行き来ができるようになることを心から願っている」(スカナヴィーノ会長)

 日本では近年、農家の「6次産業化」による所得の向上や雇用の確保が提唱されているが、イタリアでは農家が食品加工や観光ビジネスも手掛けていたり、農家の地域の直販ルートとして毎週開かれる青空市があったりと、6次産業に該当する事業形態は昔から農家の典型的なビジネスの一部だった。イメージしやすい例を挙げれば、ブドウやオリーブの農家の多くが、自分の作物を加工してワインやオリーブ油を製造しているし、地元の郷土料理との組み合わせを楽しむことができるレストランや宿泊施設を経営している(これらの観光施設はアグリツーリズムと呼ばれる)。

 コロナウイルスによる経済へのダメージから、ワインの市場は、家庭消費による小売販売は増加しているとはいえ、飲食店などの消費が完全に停止したことによる、高級ワインやスパークリングワインなどのカテゴリーへの大きなマイナス影響は避けられそうにない。欧州でのワイン消費量は、過去5年間の平均と比較して8%減少すると見られている。

 日本でも、緊急事態宣言の前後にスーパーマーケットの棚から麺類が品薄になる事象が確認されているが、イタリアでも外出制限が始まったころから、ホームメイドのパスタやパン、菓子のブームが起きて3月下旬には小麦粉の消費が80%増を記録、という報道が出て、大手通販サイトで小麦粉類の価格が高騰した。今後もこの家庭向けの小麦粉消費の上昇傾向は続く見込みだという。しかし、小麦粉類の消費における、家庭向けの需要の割合は市場全体の5%に過ぎないといい、それ以上に、HORECAビジネスの停止による影響は大きく、昨年と比べ3月の小麦粉類の製品の出荷量は25%もの減少を記録し、危機的な状況が続くと考えられる。

 今後、欧州で封鎖処置が徐々に解除されても、外食や観光産業に消費者が戻ってくるまでにも時間を要すると見られ、食品・観光産業を含むに農家に関係する産業全体おける「アフター・コロナ」の時代は厳しいものとなるであろう。

 同時に、イタリアから日本への輸出においても、航空便の減便により比較的単価の低い食品産業における航空貨物の入荷は厳しい状況で、フレッシュ・チーズやハム類、生鮮食品などのイタリアの高級食材はしばらくの間、入手しにくい状況が続くとみられる。それだけでなく、日本での新型コロナウイルス感染症の拡大・緊急事態宣言から、外食産業全体が停滞していく状況の中、しばらくは日本の「イタリアン」市場も大きく縮小することが予測される。

 イタリア農業連盟は、「日本のイタリアン業界は、世界でもトップクラスと言われ、評価は高い」言い、イタリア料理を熱心に学び、イタリアの食文化を日本で伝えてくれている専門店が直面しているコロナ時代の苦境を一緒に乗り越えるために、「直接の行き来ができない今、オンラインの情報ツールなどを活用し、イタリアの生産者とともに、日本のイタリアン業界のアフター・コロナのために協力体制を整えたい」としている。

 

【日伊経済連合会 会長 ディサント・ダニエレ】

関連キーワード

関連記事