2024年11月23日( 土 )

【「逆流」経済危機】大企業に甘く、中小企業を平気で「見殺し」にする国

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中小企業を襲う、「逆流」経済危機

 中小企業を襲った経済危機はこれまでにもあったが、今回ほど先行きが見通せない状況は初めてだろう。

 1990年3月、不動産価格の高騰を不動産関連融資の総量規制により抑え込もうとしてバブル経済崩壊が起こった。この影響から97年には北海道拓殖銀行や山一証券の経営破綻が起こり、金融危機へとつながっていった。2008年の米国のサブプライムローンに端を発するリーマン・ショックでは、日本企業への直接的な影響は限定的だったが、その後の景気失速によりダメージを受けた。

 今回のコロナショックが今までの経済危機と大きく異なるのは、中小企業が直接的にダメージを受けるところからスタートしたところだ。バブルも金融危機もリーマン・ショックも、膨張した資産が急激に縮小する過程で不動産や建設の大企業が影響を受け、その余波が中小企業に広がっていった。今回は中小企業が最初に打撃を受け、消費の低迷から大企業が影響を受けていくという「逆流」である点がバブルやリーマンとは異なり、だからこそ、その影響は深刻といえる。なにしろ、国内企業の約99.7%が中小企業なのだから。

 異なる経路をたどるとはいえ、未曽有の経済危機が迫ってきていることは間違いない。人の動きが制限されることで、ほとんどの企業が大きな影響を受けている。IT化に消極的だった政府や行政から突如としてテレワークの推進を求められ、中小企業は四苦八苦の状況だ。アベノミクスの恩恵を受けた上場企業の内部留保は460兆円にまで膨張しており、潤沢な資金力を持つ大企業には対応可能でも、中小企業にとっては簡単なことではない。

 中小企業にとっての頼みの綱である経済政策も心もとないものだ。直接的な影響を受けた企業への給付金も今のところ最大200万円と小さく、大半の中小企業への支援は無利子無担保融資が中心だ。手続きが煩雑でわかりにくく時間もかかる雇用調整助成金、使途に制限の多いIT導入補助金も評判が悪い。このまま長期化すれば経営がもたないと感じている中小企業経営者は多い。

優良企業も「じつは…」の過去~債務免除の脛に傷持つ大企業

 バブル崩壊から「失われた10年」と呼ばれた景気後退期に、数多くの大手企業が経営に行き詰った。とくに不動産開発へ傾斜を強めていた大手ゼネコンは、数千億円という巨額の債務に苦しむことになった。倒産するゼネコンが出る一方で、金融機関からの債務免除を受けて生き延びたゼネコンも多い。債務免除を受けた挙句に倒産したゼネコンもあるが、今では優良企業の風情で生き残っているゼネコンもいる。債務免除の理由は、建設業界は重層構造であり下請企業などへの影響が大きい、また延命措置を取らなければ貸し込んだ金融機関に巨額の不良債権が確定してしまうため金融危機につながるからだ、などと言われた。だが債務免除を受けたゼネコンは金利負担など身軽になった状態で再び市場に参入してゼネコンの受注競争は激化、結果的にそのしわ寄せは下請や孫請けに押し付けられた。安値受注を余儀なくされた中小の工事業者は、体力のないところから消えていった。

 リーマン・ショックからの景気後退を受けて、中小企業への資金繰り支援として2009年に「中小企業金融円滑化法」いわゆるモラトリアム法が立法化された。金融機関が融資先に対する返済猶予や金利減免などのリ・スケジュール(リスケ)を通して返済負担を軽減するというものだ。時限立法であり13年3月末で終了したのだが、金融庁が金融機関に任意で実行報告を求めたことから、実質的には継続されてきた。任意報告がなくなり名実ともに終了したのは立法から10年近くたった19年3月だ。

 同法は高い実行率を誇り、中小企業の救済に一定の役割をはたしたことは間違いない。一方で、大きな問題も内包したままだ。返済を猶予しても業績が回復する企業は少なく、今でもリスケしたままの企業が数多く残されていることだ。リスケ企業は、銀行に生殺与奪を握られ、実質的には銀行管理の状態となり、思うような経営をすることはできなくなる。

 3月6日、コロナショックを受けた金融庁は「中小企業金融円滑化法」を事実上、復活させた。再び中小企業に対して返済猶予や金利減免などのリスケで対応していく方針だ。

借りるも地獄、借りぬも地獄、の中小企業

 経済危機が訪れた場合、大企業には債務免除の可能性があるが、中小企業にはほぼない。中小企業に対してDES(債務の株式化)やDDS(債務の劣後ローンへの変更)が推奨された時期もあったが、実行された企業は特殊な技術を持つ一部の企業に過ぎず、ほとんどの企業には使われなかった。中小企業への救済の基本的な部分は、いつも「貸す」と「待つ」だけだ。しかも、一度待たせれば、銀行は冷徹に資金回収の最大化を図るために企業を管理していく。生かすも殺すも銀行次第となる。

 今回の危機が直撃している飲食やサービス業は、建設や不動産業のように短期間で大きな利益を上げることが難しい業種だ。日々の売上の積み重ねから利益を捻出している。コロナが終息したとしても景気のV字回復は現実的ではなく、以前ほどの売上も利益もないなかで、膨らんだ借金を返していかなければならない。ここにためらいを見せる経営者は多い。借金返済のために必死に働いても、返済できず銀行管理になる可能性が高いからだ。

 コロナショックを受けて各国が企業への支援策を打ち出している。内容はさまざまだが、日本が中小企業に厳しい国であることは間違いなさそうだ。

【緒方 克美】

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