東区の傾斜マンションの調査終わる
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Net IB Newsでは 福岡市東区の傾斜した分譲マンション「ベルヴィ香椎六番館」について報じてきた。同マンションでは杭が支持地盤に到達しているかどうかの調査が終わり、4月22日、この棟の特別理事の名前で住人に対して「調査結果の報告について」という文書が配布された。書面によると、調査を実施した専門家による説明会を4月26日に予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期とし、現時点で判明している調査結果の要約を報告したとしている。調査結果の要点としては、
(1)マンションの傾斜が建設時から始まっていた
(2)構造スリットが施工されていなかった
(3)調査箇所の杭が支持層に到達していなかった書面では 杭が支持層に到達していないので、マンション施工中に傾斜は始まっており、施工業者は 傾斜を認識していたから、建具を垂直となるよう調整していると報告。
また、図面に示されていた構造スリットが施工されていないことが原因で ひび割れが生じており 改修が必要だとしている
Net IB News編集部では以前、ベルヴィ香椎六番館の不具合について説明をしていただいた構造設計一級建築士の仲盛昭二氏から、今回のベルヴィ香椎六番館の調査結果の要約についての意見をいただいたので、以下に記載する。ベルヴィ香椎の調査結果について
令和2年4月23日
協同組合ASIO 代表理事
構造設計一級建築士 仲盛 昭二ベルヴィ香椎の不具合に関する調査結果の要約について、私の見解を述べさせていただきます。調査結果の要点は
(1)マンションの傾斜が建設時から始まっていた
(2)構造スリットが施工されていなかった
(3)調査箇所の杭が支持層に到達していなかった
の 3点となっています。(1)及び(3)マンションの傾斜、杭の施工について
マンションが傾斜した原因として、杭が支持層に到達していなかったことが原因の一つとして考えられるものの、これを唯一の原因と特定することは、工学的に無理があります。
すべての杭について調査を行うことは不可能であり、杭の長期支持力には3倍の安全率を見込んであることから、極端に言えば、3本のうち1本が支持層に到達していれば、長期荷重(常時)に対して耐えることができます。
「躯体が傾斜しているが、扉やサッシは水平垂直に調整し、ごまかしている」という報告については、建具の取り付け自体が水平・垂直を確認しながら行われるので、「ごまかし」と断定することは、相手から「主観に過ぎない」と反論を招きかねません。
調査報告の要約を客観的な目線、あるいは相手目線で読む限りでは、マンション各部のレベル差(高低差)や建具の不具合の原因を杭の施工ミスと断定することは、根拠としての客観性に欠け、因果関係を立証できるものではなく、相手はいくらでも反論できると思います。訴訟となった場合には、原告側に立証義務があります。つまり、建物に生じている不具合と杭の施工状況との因果関係を客観的かつ工学的に立証しなければなりませんが、報告書を読む限り主観的な見解であり、客観的に説明されていないようです。
多くの建築紛争において原告である区分所有者側が泣き寝入りしています。「原告の立証義務」というものは、それほど厳しいものです。
今回実施された杭の調査は、私の裁判における経験からいえば、「実施しないよりは 実施した方が良い」という程度のものです。調査が販売会社や施工業者との交渉のためであるならば、交渉や訴訟を見据えた内容の調査及び報告であるべきだと思います。(2)構造スリットの未施工について
構造スリットが施工されていなかったことは、明らかな「手抜き工事」であり、現行犯です。図面に明記されている構造スリットを意図的に施工していないので、施工業者・販売業者が否定できる要素は何一つありません。
施工の段階で図面を無視し、構造スリットの施工をしなかったことは、設計及び建築確認と全く異なる建物を建築したことであり、建築基準法にも契約にも反した行為です。
構造スリットの未施工は、全国で見受けられる事象ですが、建物外部はタイルなどの仕上げがあることや、室内側からの調査のためには専有部分に立ち入る必要があることなどが調査の障壁となっています。私が知る範囲でも、相当高い確率で、構造スリットの施工偽装が判明しています。
構造スリットが施工されていなければ、地震発生時に、重要な構造部材である柱の破壊に直結しますので、他のマンションにおいても 調査を実施された方が良いかと思います。
構造スリットを図面通りに施工していないことは 施工業者の手抜きであることは間違いありませんが、同時に、区分所有者に対しては、マンション販売業者の責任でもあります。ベルヴィ香椎についていえば、若築建設は 販売と施工それぞれの筆頭となっているので、その責任は免れるものではありません。設計における誤りも無視できない
先日 私が指摘したように、このマンションの構造計算においては、柱・梁接合部の検討が省略されています。これは厳密に言えば法律違反ではありませんが、建築確認の審査において必ずチェックされる項目です。日本建築学会の鉄筋コンクリート構造計算規準において規定されている検討なので、この検討が行われていなければ、構造的に重要な部分である柱・梁接合部の安全を確認できていない建物ということになり、当然のことながら、販売価格に見合うだけの資産価値(構造耐力)を持ち合わせていないということです。立ちはだかる「除斥期間」の壁
ベルヴィ香椎六番館は 1995年の分譲開始から約25年経過しています。建築物の瑕疵担保期間として「買主が瑕疵を知ってから1年以内」 「鉄筋コンクリート造などの場合、引渡しから10年以内」(除斥期間)という規定があります。この10年という除斥期間は最大限20年まで拡大解釈できるとされています。
マンション販売業者や施工業者の瑕疵担保責任を追求する場合、この除斥期間が障壁となります。ベルヴィ香椎の不具合に関する責任を追求する場合には、この除斥期間の壁を どう乗り越えるかが鍵になります。法的な解釈は法律専門家に委ねるとして、偽装や誤りがあった設計に基づく建築確認申請は、その行為自体が 行政手続きである建築確認制度に反する行為であり、行政処分の対象となり得ると思います。行政指導には時効は無いので、販売業者は行政処分を受ける可能性も考えられます。ベルヴィ香椎六番館では、緊急事態宣言を受け現在、理事会も開催できない。詳細な調査報告書は コロナウイルスによる緊急事態宣言が解除された後になると思われるが、この間に区分所有者の方たちの関心と団結を高め、区分所有者側にとって、より有効な交渉方法を見いだすべきではないかと考える。
【桑野 健介】
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