2024年11月23日( 土 )

新型コロナ感染拡大の裏で進むより深刻な脅威の数々(1)

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国際未来科学研究所代表 浜田 和幸 氏

 新型コロナウイルスが世界を席捲し、世界最大の経済大国アメリカも危機の瀬戸際に追い込まれている。だがコロナウイルス一色に染まっているニュースの陰で、より大きくかつ深刻な問題も起こっている。複眼的な問題意識をもって見なければ、足元をすくわれることになるだろう。危機が顕在化する一歩前に回避策を講じることが、何よりも欠かせない。

非常事態宣言で米経済は大打撃

 昨年末に武漢から発生したとされる新型コロナウイルス(COVID-19)は、瞬く間に世界を席巻してしまった。ヨーロッパでは、イタリアを筆頭にフランスやスペインでも感染者や死者が激増している。フランスのマクロン大統領は「これは目に見えない敵との戦争だ」と語気を強め、ドイツのメルケル首相は「感染の恐れが高まった」ことを理由に、「当面は自宅で仕事に取り組む」と発表し、国民にも自宅待機とテレワークを勧告している。

 「たいした問題ではない。暖かくなれば、じきに終息する」と当初は高をくくっていたアメリカのトランプ大統領も、3月13日には前言を翻して非常事態宣言を発することになった。ニューヨーク市では飲食店や劇場まで、すべて営業停止の命令が出された。感染拡大の原因となるクラスターを防止するためだが、解雇が急増し、失業率は戦後最悪のレベルに達する懸念が出ている。全米レストラン協会によれば、「飲食業だけで500万から700万人が職を失う」とのことだ。

 マスクをはじめ物不足や買い占めが横行し、犯罪の多発が懸念されるため、各地の銃砲店には護身用の銃や弾丸を買うために長蛇の列ができる有り様だ。首都ワシントンに隣接するメリーランド州のバルティモア市では犯罪が急増したため、ついに米軍が出動し、治安維持にあたるという非常事態に突入した。

 その裏には「パンデミック対策を最優先させるため、よほどの犯罪でなければ警察も対応しなくてもよい」とか「刑務所内で感染が広がる恐れがあるため、囚人約230万人を軽犯罪者から順番に保釈する」との通達が影響しているようだ。イランでは刑務所から約8万5,000人が保釈されているが、アメリカでも同様の対応が始まる模様だ。

 何しろ、アメリカは世界最大の刑務所収監人口を誇る犯罪大国である。いくら刑務所がクラスター化するのを防ぐためとはいえ、犯罪者も次々に釈放するのは恐ろしい限りだ。一般市民が自己防衛のために銃を買い漁るのも無理がない。都市によっては「銃砲店の営業停止」処置も発令されているが、その分、ネット販売では銃の売上が急増している。

 いずれにせよ、アメリカではトランプ大統領の根拠のない強気の発言とは裏腹に、医療や保健衛生の専門家が集まり、政府としてのパンデミック対策を早い段階でまとめていた。それは「米国政府によるCOVID-19対応計画」と題され、今回の病原菌の発生から世界に拡散していった過程を分析し、今後の展開を冷静に分析、予測したうえで、政府としての取るべき対策を明示したものである。

 100ページを超える詳細な内容であるが、最も重要な指摘は次の3点であろう。第一が「急速な拡大によって、対応は後手後手になるだろう」。第二は「パンデミックは18カ月か、それ以上の長期にわたり、その間、感染者の発生数の増減にはいくつもの波が起こる」。第三は「COVID-19の拡散範囲と深刻さの度合いに関しては、予測することも特徴を特定することも難しい」。

 それだけ対応の困難さが想定されるパンデミックというわけだ。アメリカ国内でも相当数の死者が避けられず、経済も壊滅的な被害を受け、社会不安から犯罪も急増するとの指摘に、さすがのトランプ大統領も緊急事態との認識に傾いたと思われる。トランプ大統領の経済顧問を務めたケビン・ハセット氏いわく「コロナウイルスの影響で首切りの嵐が吹き荒れ、3月だけで100万人が失業するだろう」。

 全米最大手のショッピングモールを経営するサイモン不動産は、各地のショッピングモールや小売業店舗をすべて閉鎖する決定を下した。各州の失業保険給付の窓口はパニック状態になっている。デトロイトの3大自動車メーカーも、アメリカ国内の工場はすべて閉鎖に追い込まれた。世界最大の航空機メーカーのボーイングは倒産の危機に瀕しており、政府の救済がなくては立ちいかない模様である。

 世界最大の経済大国が奈落の底に転落する瀬戸際に追い込まれた、といっても過言ではない。これではトランプ大統領の再選は至難の業であろう。追い詰められたトランプ大統領は「諸悪の根源は中国だ。発生の実態を隠蔽し、世界への拡散を食い止める機会が失われた」と、責任転嫁に走っている。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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