新型コロナ感染拡大の裏で進むより深刻な脅威の数々(3)
-
国際未来科学研究所代表 浜田 和幸 氏
新型コロナウイルスが世界を席捲し、世界最大の経済大国アメリカも危機の瀬戸際に追い込まれている。だがコロナウイルス一色に染まっているニュースの陰で、より大きくかつ深刻な問題も起こっている。複眼的な問題意識をもって見なければ、足元をすくわれることになるだろう。危機が顕在化する一歩前に回避策を講じることが、何よりも欠かせない。
迫りくる危機の陰で食糧難の「パンデミック」
日本でもメディアは、朝から晩まで新型コロナウイルスの感染に関するニュースを流している。あたかも世界はコロナウイルス一色に染まったかのようだ。しかし、未来学の観点から捉えれば、これほど危険なことはない。確かにCOVID-19は目前に迫りくる危機の源泉ではあるが、その陰でより大きく、かつ深刻な問題も発生しているのである。複眼的な問題意識をもっていなければ、足元をすくわれることになるだろう。
また、新型コロナウイルスの特性に関する研究も国際的な協力体制の下で進める必要がある。なぜなら、COVID-19と言っても、中国とイタリアでは特性がまったく違っているからだ。台湾の感染症専門医によれば、「中国の患者から採取したウイルスとオーストラリアやアメリカの患者から採取したものでは病原菌の成分に大きな違いがある」とのこと。「その成分の違いが致死率の違いをもたらしている」という。
要は、中国発のウイルスとアメリカ発のウイルスでは成分が異なる、別種のウイルスというわけだ。そうした背景があるためか、アメリカでは「武漢ウイルス」や「中国ウイルス」という呼び名が流行っているが、中国では「イタリアウイルス」や「イランウイルス」という呼び名を使っている。ちなみに、中国政府は駐日中国大使館に対して「日本ウイルス」という呼び名も外交面では使うよう指示を出しているほどだ。
いずれにせよ、今回の新型コロナウイルスは急速な拡散と転移を繰り返しているようだが、自然発生的なものにせよ、人工的な生物化学兵器のなせる業にせよ、この種の病原菌による健康被害は戦前、戦後を問わず、これまで何度も人類は遭遇してきているのである。SARS(重症急性呼吸器症候群)にせよ、MERS(中東呼吸器症候群)にせよ、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)もそうだが、感染症による被害は枚挙にいとまがない。
こうした過去の感染症による被害の教訓を生かし、非常時の対応策を講じていれば、「見えない敵」に飲み込まれるリスクも抑えることは十分可能であった。マスクや防護服、あるいは人工呼吸器が不足しているというが、過去の教訓を生かしていなかった“つけ”に他ならない。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」のたとえではないが、今回のウイルス騒動が終息した後には、次なる発生に対する備えを万全にすることが、官民問わず、そして企業や個人にとっても欠かせないだろう。
実は、多くの耳目が新型コロナウイルスに釘付けになっているのだが、その陰ではさらなる深刻なリスク要因が大きな影を投げかけているのである。マジシャンの手口にたとえれば、右手を高く上げ、観客の関心を引き付けている間に、左手でマジックのタネを仕込んでいるに等しい。どういうことか説明してみたい。
というのは、今、東アフリカではバッタの一種「サバクトビバッタ」が異常発生しており、国際連合(以下、国連)によれば「人類の危機をもたらす緊急非常事態」というのである。なぜなら、4,000億匹と目されるバッタの大群が人類の食糧を食い尽くし、卵を産みながら、アフリカから中東、そしてアジアに移動を続けているからだ。
アフリカのケニアが最も深刻な被害を受けているが、「過去70年で経験したことがない」というほど大量のバッタが発生し、ニューヨーク市の3倍にあたる広い面積の空を覆い、昼間も真っ暗闇になっている。アフリカからアラビア半島にも飛来しており、イエメン、サウジアラビア、イラン、パキスタン、インドと被害は拡大中である。
そして2月27日、中国政府の国家林業草原局では「蝗害緊急通知」を発令。現在4,000億匹といわれるバッタが「今後500倍に増加し、中国に侵入する恐れがある」というのである。「一難去ってまた一難」ということであろうか。新型コロナウイルスは目に見えない敵であるが、サバクトビバッタは目に見える脅威に他ならない。
FAO(国連食糧農業機構)も、「このままでは6月までにバッタの数は500倍に増える。対策費用は1億3,800万ドル(約153億円)が必要だが、2月末の時点で5,200万ドル(約57億円)しか集まっていない」とお手上げ状態を告白している。日本ではまったく関心のレーダーに引っかかっていないようだが、ただでさえ食糧難に襲われているアフリカや内戦状態に直面している中東や南アジアにとっては、コロナとのダブルパンチに違いない。
残念ながら、FAOが発するSOS(エスオーエス)に対して、日本をはじめ各国は無関心の鎧をまとったままである。しかし、早晩、COVID-19より深刻な「パンデミック」をもたらしかねない。迫りくる危機の予兆に対して、日本はあまりにも無防備といえるだろう。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。関連記事
2024年12月20日 09:452024年12月19日 13:002024年12月16日 13:002024年12月4日 12:302024年11月27日 11:302024年11月26日 15:302024年12月13日 18:30
最近の人気記事
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す