前途多難 難局を乗り切るために求められる経営革新~博多座
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福岡の演劇文化を発信する(株)博多座は、新型コロナウイルス感染拡大防止のために2月27日から公演を中止した。同社では、県からの自粛要請に従い現時点で8月3日まで演目の中止を予定している。5カ月におよぶ公演の中止は、大きな打撃であるが、同社ではこれまでにも、新分野への挑戦など経営を革新することで困難を乗り越えた歴史がある。
2008年は過去最大の赤字
(株)博多座は1996年7月、福岡市や地元企業などが出資して設立された。博多座が開業したのは、3年後の99年5月である。福岡、九州を代表する演劇文化の発信地として歌舞伎やミュージカル、宝塚など幅広い公演を開催、2018年度には43万8,000人を動員し地元経済にも大きく貢献する存在となった。
同社の初代社長は日本タングステン(株)社長を務めた松本昇三氏で、その後は元福岡市助役・青栁紀明氏、元福岡市副市長の中元弘利氏と、福岡市OBの社長が続いた。福岡市や経済界からの支援と松本氏が築いた基盤もあり業績を伸ばした。しかし、3代目・中元氏時代の07年に投資信託に投じた6億円が1億6,000万円の損失(解約は11年)を出し、08年度はリーマン・ショックの影響もあり、過去最大の赤字を計上するなど経営の足かせとなった。
経営悪化の要因はそれだけではない。毎年同じような路線の演目では、客が求めるものを提供できなくなっていたということも大きな要因だったといえる。
民間出身経営者による立て直し
こうしたマイナスの状況下で、立て直しを託されたのが4代目社長に就任した芦塚日出美氏である。芦塚氏は、九州電力(株)副社長や九州通信ネットワーク(株)(現・QTnet)社長を歴任するなど、その経営手腕は高く評価された人物だ。しかも、福岡経済のなかでも随一の“文化人”として名高いことからも、再建にはうってつけだった。
芦塚氏は、10年6月に社長に就任すると、次々と改革を打ち出し実行した。たとえば、11年に年度事業計画、12年度からは中期経営戦略を策定し、各月の事業目標の管理を実施した。集客にもっとも影響を与える演目についても思い切った改革を行った。それまでは、外部から提案された演目を買って興行するのが当たり前だったが、集客力と収益性の期待できる演目の選定にこだわった。演劇は、実際に興行してみないと当たるかどうか先が読みづらいものだが、過去の実績などからデータを抽出し、興行収入率と興行収支を分析、評価、検討することで、予測と実績の誤差を小さくするよう選定基準を設けた。
11年度後半にジャニーズの堂本光一が主演を務めた『Endless SHOCK』の成功は大きな転機となった。企画段階では、博多座の客層とは違うのではないかと懸念されたが、公演前にチケットが完売するほどの大ヒットとなったのだ。こうして設けた選定基準に沿って演目を決定し、伝統的なクラシック歌舞伎はもちろん、スーパー歌舞伎などの現代風歌舞伎、ミュージカル、宝塚、ジャニーズなど、さまざまなジャンルの作品をバランス良く配置し、幅広いファンを獲得することに成功した。
外部の演目を興行するだけでなく、演目の自主制作にも挑戦した。制作した作品は、博多座以外にも販売できるコンテンツとなり、収益に貢献する。自主制作することで、作品づくり全体の理解とコスト管理に対する考え方も養われ収益性も高まった。
こうして、演目を自主制作し演劇興行を供給する立場への転換を図ったのだ。さらに、新しいジャンルの開拓や効果的な宣伝広告、営業、興行原価や販売管理費抑制による収益性の向上にも積極的に取り組んだ。それまでの博多座にはない新しい考えや事業への取り組みは、スタッフに浸透し、優秀な人材が育つ社風が醸成された。芦塚氏は、博多座に革新をおこしたのだ。
求められる革新
芦塚氏が実行した改革は確実に効果を生んだ。就任した10年から2年間は業績を回復させながらも赤字経営を余儀なくされたが、12年には目標に掲げた5,000万円の黒字を達成した。その後も、順調に業績を伸ばし、博多座躍進の基盤をつくったのだ。
芦塚氏の後に社長に就任した相良直文氏も、元RKB副社長を務めた民間企業出身者である。演出家・蜷川幸雄氏の舞台作品上映を手がけるなど、興行の専門知識も人脈も持ち合わせていた。相良氏も芦塚氏が築いた路線を踏襲し、博多座の発展に貢献した。
19年6月、元福岡市副市長・貞刈厚仁氏が新社長に就任した。2代9年にわたって民間企業出身の社長が築いた黒字体質の基盤を引き継いだが、新型コロナウイルスの発生によって一転、8月30日までの公演を中止するなど苦しい経営を強いられている。約5カ月もの公演が中止となれば、前年の5カ月分にあたる約17億円の売上が消える可能性がある。このままでは、かつてのように債務超過に陥る可能性も否定できない。
コロナ問題は我々の生活やビジネスに変化をもたらしている。博多座がこの難局を乗り越えるためには、新たな経営革新が求められるだろう。能吏として、その力を発揮し副市長まで昇りつめた(当社社長の推薦もあったようだ)貞刈社長がいかに経営を立て直すのか、その力量が問われている。
【宇野 秀史】
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