2024年11月24日( 日 )

維新の動きに注目~検察庁法改正案をめぐる与野党の攻防

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検察庁法改正案、今国会成立見送りへ

立憲民主党 枝野 幸男 代表

 ネット上の記録的な抗議が、検察庁法改正案の強行採決を目論む安倍政権にブレーキをかけ、今国会成立見送りに追い込むことになった。週明けの18日、「今国会成立見送り検討――世論反発に配慮」(読売新聞)を皮切りに時事通信や共同通信も「今国会成立見送り」を示唆する記事を配信。これを受けて立憲民主党の枝野幸男代表は、以下のようにツイートした。「読売・共同・時事と揃ってきました。政府・与党で動きがあるのは間違いないでしょう。あと一押し。単なる『先送り』で国民の関心が薄れるまで待つというのは許されません。#検察庁法改正部分は切り離しを求めて行きます」

 臨時国会に先送りされても、内閣による検察支配を阻止するには、国家公務員改正法と束ねられた一括法案から検察庁法改正案を切り離し、特例的な定年延長を可能とする部分を削除することが不可欠だ。

 しかし安倍政権は世論の動向を注視する一方、改正案成立にこぎつける“工作”を水面下で進めていた。

 「検察庁法改正 定年延長『理由を記録』自公・維新検討 附帯決議案」(17日の読売新聞)によると、維新は附帯決議採択を条件に改正案に賛成する方針だというのだ。

 「(付帯決議の原案は)内閣の判断で検事総長らの定年延長をする場合、経緯や理由を行政文書として残すことを求めることが柱」「検事総長、最高検次長検事、高検検事長らの定年を特例で延長する場合、『法務省が内閣に提示する人事案を行政文書として保存する』と明記。法務省の人事案に変更を求める際は『理由を記録し、事後の検証に対応できるように』と求めている。特例適用の明確な基準を示すことも盛り込んだ」(同)。

 附帯決議採択は、与野党対決法案で維新が賛成に回る時の常套手段だ。途中までは対決姿勢を見せながら、最終的には法的拘束力のない附帯決議で「自称野党(ゆ党)」の面子を立ててもらい、法案成立に協力する茶番劇を繰り返してきた。

「ゆ党(政権補完)」路線こそ、維新に恩恵

 今回の検察庁法改正案でも維新はほかの野党と同様、改正法案の切り離しを求めていた。しかし自民党は拒否。真の野党なら反対に回るはずだが、政権補完勢力の自称「野党」の維新は、附帯決議採択を条件に賛成することを決めたようなのだ。

 「表で対決ポーズを取りながら裏で手を握る」という永田町の伝統的手法を習得しているようにも見えるが、この野党か与党かわからない「ゆ党(政権補完)」路線こそ、維新に恩恵をもたらしてきたのは間違いない。橋下徹著『政権奪取論――強い野党の作り方』にはこうある。

 「うめきた2期開発、阪神高速道路淀川左岸線の延伸、大阪万博への挑戦、カジノを含む統合型リゾート推進法(IR推進法)の制定、リニア中央新幹線の大阪開通の8年前倒し――その他、これまで法律や制度の壁にぶつかっていたことを安倍政権の協力で乗り越えたことは多数ある。ゆえに、日本維新の会が安倍政権に協力することは当然だ」

 維新の“顔”は結党当時の橋下氏から現在の吉村洋文・府知事へと交代したが、両者に共通するのは、安倍政権に協力する見返りに地元大阪への利益誘導を勝取るという政権補完路線なのではないか。

 維新副代表を兼任する吉村氏は5月14日の会見で、私の質問に頑なに検察庁法改正案に反対しない発言を繰り返した。橋下氏から「大阪の田中角栄」のような利益誘導役を引き継いだように見えたのだ。

 ――この法案のなかには野党が(修正案で)削除要求をしている「内閣の特例的な定年延長」が入っている。恣意的な運用で検察が内閣のコントロール下になってしまうのではないかという懸念が示されているが、それでも反対しないのか。

吉村洋文・大阪府知事

 吉村知事「まず本質として考えないといけないのが、検事総長の人事権を誰がもつのか。持つべきなのか。誰がもつのが国の在り方としてあるべき姿なのかという問題意識ですね」「強烈な国家権力をつくる捜査権を持つ検察庁のトップの人事を誰が決めるのか。その問題の本質を考えなければならないだろうと思っています。今までは検察庁のなかで完結していた。つまり僕らが選挙で選んだ人とは関係のないところで選ばれるのがあるべき姿なのか。(検察庁が)独善化したら誰がストップをかけるのか。その人をクビにできないとしたらどうしたらいいのか」「政治家は選挙で我々の力でクビにできますが、公務員はクビにはできません。実力組織をもつ、とくに検察庁については、僕は内閣が第一義的に(人事権を)がもつべきだと思います」

 ――ポイントは野党が修正案で削除要求をしている「(検察官の)定年延長の特例を認めるのかどうか」。特例的に延長するしないを内閣ができることを一番問題視している。

 吉村知事「だから突き詰めて考えたら、誰が検事総長の人事権をもっているのかが最後の論点として持ち上がると思います。僕は検察庁の内部で人事権をもつのではなくて、内閣がもつべきだと思っています」「(人事権行使の)そのやり方がどうしてもおかしいとなれば、政治がおかしいということで(内閣を)倒しにかかればいいと思います」。

 ――「内閣が恣意的な定年延長を可能にする法案に最終的に賛成する」と捉えられると思うが、そういう理解でいいのか。

 吉村知事 「『恣意的な』という表現自体が僕は『恣意的だ』と思います。内閣に人事権があるという妥当性が一定あるのであれば、それは内閣が人事を行う」「検察庁の内部で検察庁のトップ人事を決めるべきではないという判断です。民主的なコントロールを効かせる。その民主的コントロールがおかしければ、国民が政権を倒すということです」。

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 維新はカジノ法案や共謀罪など与野党対決法案で最終的に賛成に回る一方、維新の目玉政策の大阪万博誘致への協力、リニア開通前倒しなどのインフラ整備促進を実現してきた。ギブ・アンド・テイクの関係ともいえるが、同時に、安倍政権が民意に反する法案強行採決に協力、国民全体に不利益を与えてきた側面もあるのだ。臨時国会に持ち越された検察庁法改正案をめぐる与野党の攻防のなかで、維新がどう動いていくのかが注目される。

【ジャーナリスト/横田 一】

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