2024年11月22日( 金 )

「徒歩の調査」から見た福島第一原発事故 被曝地からの報告(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

元福島市渡利住民 千葉 茂樹

実際に歩いて調べた汚染状況

千葉 茂樹 氏

 原発推進派の方も、原発事故が起きたらどのようになるか、この報告を読んで考えていただきたい。本報告では、私が体験した「福島第一原発事故の現実」を書かせていただく。なお、本報告は反原発の立場で書いている訳ではない。あくまでも私の体験・調査の結果であり、「原発事故が起きてこうなった」ということである。

 原発事故当時、私は福島市渡利に居住していた。 9年経った今でも、あの恐怖の日々は、鮮烈に蘇る。これは、その恐怖を味わった人間でないとわからない。

 人は、嫌な事や自分に都合の悪いことには目を背けようとする。はたしてそれで良いのであろうか。その行為は後日、「大きなツケ」として自分に戻って来る。本稿は、受け取る人によっては不快に感じるであろう。しかし、よく考えていただきたい。現実を直視していただきたい。そのうえで、どうすべきかを考えていただきたい。なお、私の報告書や論文は、私が放射能汚染地域を一歩一歩、足を進めて調査したものである。他人のデータをまとめたものではない。

30年後の検証調査のために

 初めに、私の基本的な考え方を述べておきたい。原発事故は絶対に起こしてはならない。しかし、起きてしまった以上、放射性物質による汚染の状況を詳細に記録して残す必要がある。なぜなら、原発事故の20~30年後に再検証が必ず行われる。この際には、詳細な現地調査のデータが必要となる。私はその日のために調査をしているのである(日本地質学会のHPに掲載)。

 今、原発事故直後の調査を振り返ると、「やっておけば良かった事」や「恐怖でできなかった事」がたくさんある。当時は高校に勤めており、今のように自由にはできなかった。仕事はあくまでも「結果がすべて」であり、この原稿を書きながらも反省しきりである。

原発事故を語ることは「風評被害」か

 あえて書かせていただく。福島県では原発事故を語ることについて「忌避感情」が強い。「臭い物には蓋をせよ」という状態である。原発事故の汚染を「風評」と報道することがあるが、風評とは「根も葉もないこと、『根拠のない事』を、さもあるようにいうこと」である。しかし、私の2019年の調査では、福島県には間違いなく「原発事故由来の汚染物質」がいまだにある。私は青年期まで岩手県一関市で育った。一関第一高校の恩師から言われた言葉の1つは「常に自分の頭で考えて行動せよ。事が起きたとき、根本原因を取り除かねば、物事は解決しない」である。臭いものは取り除くことこそ最善の解決法であり、蓋をしてはいけないのだ。

 私の経験を書く。毎春、地元大学で地質学系学会の福島支部総会・研究発表会がある。2013年春、私は原発事故に関する2011~12年の調査データを発表した。その際、2人の大学教授から「福島県には、あなたが発表したような『汚染された土』はない。数値を見ると測定機器に問題がある。大学の機器で測定しないからそんな値になるんだ」と罵倒された。

放射能を測定した、飯舘村の黒い土

 2013年7月、問題の「汚染土」を京都大学原子炉実験所の小出裕章氏に測定していただいた。その土は、2012年4月30日に飯舘村で採集した土である。結果は1,430万Bq/kgという、とてつもなく高い放射能が出た。放射能が0.8万Bq/kg以上になると隔離しなければならない。実にその基準の1800倍の放射能である。

 さらに2019年の発表では、博士課程の大学院生から「公的機関で測定データを公開しているから、あなたの調査には意味がない」との意見が出た。しかし実際のところ、公的機関では私のように「現地を歩いての調査」はしていない。私が嫌いなことは、事実を事実として認めないこと、都合の悪いデータは排除すること、データを自分に都合の良いように曲解すること、である。

 住民の考え方もいろいろである。昨年徒歩で調査をしていると、汚染を心配して声をかける方、怪訝そうに見る方、不審者として警察に通報する方、などさまざまであった。

(つづく)


〈プロフィール〉
千葉 茂樹

1958年生まれ。岩手県一関市出身。元福島県高等学校教諭。専門は火山地質学。調査の中心は磐梯山。この他に、「富士山、可視北端の福島県からの姿」などの多数の論文がある。2011年3月11日の福島第一原発事故の際は、福島市渡利に居住していた。翌12日、会津の猪苗代にいったん避難して20日に渡利に戻る。異変を感じたことから、専門外の「放射性物質による汚染」の研究を始めた。その後、阿武隈山系の平田村に転勤となる。平田村は原発から約45kmと近いが、地形の影響で「汚染がドーナツ状に低い地域」のほぼ中心にある。著者の調査形態は、地質調査と同じ「徒歩」が基本。2019年3月で定年退職。

※詳細な調査データは「報告書・論文など」として、京都大学吉田英生教授のHP(Watt & Edison)http://wattandedison.com/Chiba2.htmlに掲載。磐梯山の論文も含む。

(中)

関連キーワード

関連記事