2024年11月24日( 日 )

危機に直面し、自らをイエス・キリストにたとえる孫正義の自信と勝負魂(2)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

奇想天外な比喩の「ダブルパンチ」

 孫正義はこれまでも奇抜な発言やたとえを繰り出し、世間の注目を集めてきた。しかし、自分の投資した企業やその決断を下した自分を「イエス・キリスト」になぞらえるというのは前代未聞であろう。しかも、その直後には、伝説のスーパースターである「ザ・ビートルズ」まで引き合いに出したのであった。曰く「あのビートルズもデビューしたてのころはまったく人気が出なかった」。

 要は、投資家の間に広がりつつある不信感や懸念の思いを払拭するために、宗教や芸術の極みと目されるパワーを味方にする表現を使うという作戦に出たわけだ。「死の淵からカムバックする」というメッセージはたしかにネットバブルから復活を遂げた孫にはぴったりの表現からもしれない。

 いずれにせよ、この奇想天外な比喩のダブルパンチに世界のメディアが圧倒された。このオンライン会議を通じて、孫正義は「ビジョン・ファンドは人類が直面するかつてない危機的状況に対し、最大限の挑戦の精神で取り組む覚悟だ」と宣言したのである。そこまで大見えを切られると、大方の投資家たちも「キリストのように、水の上を歩いたり、水をワインに変えたりするような奇跡は起こせないだろうが、ポストコロナ時代に大化けする企業を発掘することはできるかもしれない」と見方を変えるきっかけにはなったようだ。

 実は、孫正義は記録的な大赤字についても、「このような失敗は外部要因によるものではない。自分自身の判断ミスが原因である。このことを認めない限り、次のステップには進めないだろう。復活もあり得ない」と、率直な心情を吐露している。見方を変えれば、キリストが十字架に張り付けされた後、復活を遂げたのと同じように、孫正義も自らの復活を予言するという大勝負に打って出たといっても過言ではない。かつてない大失敗を認め、その谷底から新たな翼を得て飛び出すという復活イメージを投資家のマインドに刷り込もうという作戦に違いない。

アリババに代わる企業は現れるのか

 かつて「ウィワーク」を金の卵を産むガチョウをイメージ・キャラクターにして売り出した孫正義である。今回は自らを復活するイエス・キリストに見立てるイメージ戦略に着手したわけだ。いずれにせよ、新型コロナウイルスの影響で大半の経済人も政治家も委縮しがちな状況にあるなかで、自らをキリストやビートルズのイメージに重ねることで、新たなビジネスに打って出る姿勢を見せているのは注目に値する。「コロナの谷底から不死鳥の如く復活する」というシナリオに、欧米のメディアは驚きつつも、概ね好意的な姿勢を見せている。

 では具体的に復活を可能にする新たなビジネスモデルや投資先はどこなのか。孫正義の大成功のきっかけになったのはジャック・マーの「アリババ」であった。中国の新興企業に対し、これといった調査もせず、自らの直感で投資を決めたことで、後に大化けをすることになったのがアリババである。1999年のことであった。2,000万ドルの投資で同社の株式の34%を取得したところ、14年後には500億ドルに大化けしたのである。とはいえ、当初10年間はアリババの収益はゼロだった。

 その創業者であるジャック・マーとは「生涯の友」であり、「もっとも信頼するビジネスパートナー」としてソフトバンクの取締役を長年にわたり務めてきた。しかし、本人の意向により6月25日の株主総会で退任することが決まった。ソフトバンクの成功、大躍進の原動力であったアリババに代わる企業は現れるのだろうか。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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