2024年11月24日( 日 )

コロナ禍でもカジノ誘致?~大阪府・市が見直しを否定

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 コロナ禍で大阪へのカジノ(IR)誘致も揺らぎ始めている。米国カジノ最大手の「ラスベガス・サンズ」(アデルソン会長)は5月13日に横浜や東京への日本進出断念を表明、翌日の朝日新聞は「横浜のIR誘致に暗雲―最大手の撤退、他社が続く恐れも」という見出しで「他のIR事業者に同様の動きが出る可能性もある」と報じた。案の定、撤退の気運は大阪にも“飛び火”した。

 大阪へのカジノ誘致で米国カジノ大手のMGMと組んでいるオリックスも5月22日、「今後数カ月でコロナの影響を検証、良い投資であり得るのかを再検討する」と井上亮CEOが3月期決算説明会で発言。見直しの方針を明らかにしたのだ。

松井 一郎 大阪市長

 こうした動きに無頓着なのが大阪府・市だ。6月4日の松井一郎・大阪市長(維新代表)の会見で、オリックス経営トップの見直し発言を紹介したうえで、「これを受けて大阪市が、コロナ禍でカジノが高収益性を保ってビジネスモデルとして成り立つのか、IRを支えられるのかを検証、調査する考えはないのか」と聞くと、こんな答えが返ってきた。

 「1年、2年の時期が経過をすれば、コロナを普通のインフルエンザとして扱えるようになると思う。その後は、間違いなくIR施設はエンターテインメント推進で日本経済を支える1つのツールになると思っているので、ぜひ、推進していきたいと思います」。

 しかし、カジノ業界に詳しい鳥畑与一・静岡大教授は「MGMに投資余力はないでしょう」と指摘していた。
 「新型コロナウイルス感染拡大で米国を含めた世界中のカジノが閉鎖されています。約8兆円の巨大市場が消え、どの業者も収益ゼロに陥った。再開できてもV字回復は困難。ソーシャル・ディスタンスを保つことが不可欠なため、たとえば、スロットマシンのあるフロアでは客同士の距離をあける必要があり、客数を従来の半分以下に絞らざるを得ない。当然、収益性は激減。カジノの高収益性で、周辺の国際会議場やエンターテインメント施設などの赤字を補てんするというIRのビジネスモデルは成り立たなくなった」。

 コロナ禍でカジノをめぐる状況は一変。感染拡大前には成立したビジネスモデルは瓦解、アフターコロナ時代には過去の遺物のような斜陽産業になってしまったというのだ。

 仮に松井氏のいうようにV字回復をするとしても、コロナがインフルエンザ並になるまでの1年2年の間にカジノ業者の経営がさらに悪化し、日本への投資余力が残っていない可能性は十分にある。こうした悲観的な見方を松井氏に再度ぶつけて、「再検討(リサーチ)をしないのか」「住民投票にかけないのか」と聞いたが、いずれの回答も「NO」。ただし松井氏は、カジノ誘致の時期がずれ込むことは認めた。

 「MGMからは『非常にコロナで経営的には厳しい』『大阪でのIR実施について撤退など々は考えていない』と。ただ『直接会って協議ができないので少し時間を延ばしてほしい』という連絡はもらっている」。

 この後、延期発言に関する質問が集中、松井氏も「事業者の投資力が落ちており非常に厳しい状況になっている。開業時期も変えていきたい」と述べたため、開業延期を伝える記事が相次いで出た(6月4日の日経「大阪IR、全面開業27~28年に コロナ禍で遅れ」など)。

 松井氏はカジノ誘致自体の見直しは否定したものの、開業時期がずれ込むことは認めたのだ。維新副代表の吉村洋文・大阪府知事にも前日(3日)の会見で同じ質問をしたが、松井氏と同じように見直しを否定。そこで「カジノの高収益で他の(IR)施設を維持・運営するビジネスモデルが崩れると、(赤字を垂れ流す)莫大なお荷物ができて終わりという可能性もある」と聞いたが、それでも「IR事業は公営事業ではなくて民設民営事業なので収支性についても民間が判断することになると思う」「詳細な収益モデルを大阪府がつくることではない」と府の再検証を吉村氏は否定したのだ。

 しかし「カジノの3密のビジネスモデルは終焉した」と強調する先の鳥畑氏は首を傾げていた。「大阪などカジノ誘致自治体は、感染拡大でカジノ市場がどう変わったのか、カジノ企業がどういう経営状況なのかを見極める作業をやる必要があります」「カジノ誘致計画を中断し、予算や人的資源をコロナ感染対策にまわすべきでしょう」(鳥畑氏)。

 維新副代表と知事を兼務する吉村氏が「最も評価する政治家」(5月7日の毎日新聞)に躍り出ると、松井氏が代表の維新の支持率も“吉村効果”で上昇したが、2人ともコロナ禍以前の古き良き時代のカジノ成長戦略に固執している。「アフターコロナ時代のニューリーダー」と評価する向きもあるが、一皮剥くと、安倍政権(首相)と同様、旧時代の固定概念に縛られているようにしか見えないのだ。税金の無駄をなくすという維新の行政改革にも逆行していることも明らかだ。維新代表の松井氏は、住民投票不要の理由を次のように述べた。「もう我々は何度も選挙で『IRを推進する』『大阪夢洲にIR、インバウンドの拠点をつくりたい』と訴えている。住民投票をする必要はない。『IRを進めていく』のは我々の公約だから、公約は実現をさせていきます」

 しかし経営悪化でカジノ業者が撤退すれば、税金投入なしでは維持困難な巨大リゾート施設群が残される。かつてのリゾート法施行で開発ラッシュとなった挙句、各地に廃墟が残った二の舞になりかねない。

 そのツケを回されるカジノ誘致自治体の住民は「コロナ禍でカジノ誘致を進めるべきか否か」を選択する権利があるのではないか。大阪を含めた全国各地で再検証が必要だ。

【ジャーナリスト/横田 一】

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