2024年12月26日( 木 )

この世界、どうなる?(1)トランプ革命

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広嗣 まさし(作家)

 『ホモ・デウス』の著者はアルゴリズムに長けた人工頭脳が人類を凌駕する危険性を示唆した。私にすれば、人類中心にすぎる見方である。「あなたは自然の力を見くびっている」、とでも言いたくなる。コロナウィルスだって自然の一部。たとえそれが人工的につくられたとしても、すでに自然の一部となっており、私たちの生体に寄宿するからこそ厄介なのである。人類は自然の一部に過ぎないのだから、自然によって葬り去られておかしくない。なのに、人工知能によって滅びるかもしれないなどと考えるのは、人類を買いかぶりすぎているというものだ。

 とはいえ、私には人類文明の将来について大それた見解を示すつもりも、器量もない。せいぜいが、いま起こっている世界の出来事を要約し、「歴史が変わるぞ」とぞくぞくしているだけである。私の弱点はアフリカについて無知であること。今後の世界を語るには、アフリカを知っておくべきなのだが、私はそれを知らない。私の見える世界は、その意味で古臭い。まだまだ現今のメディアの示す世界を出ていない。

 ここではまず、「トランプ革命」について述べてみよう。多くの人がコロナウィルスの前と後では世界が変わると言っているが、その大きな変化の前兆は、すでに2016年のアメリカ大統領選挙に見つかるのである。それほどに、ドナルド・トランプの大統領選出の意味は大きい。その大きさは、もう少し時が経たないと、正確には見えてこないだろうが・・・。

 日本ではトランプが選出されたとき、これで世界経済に大波乱が起きるだろうと予測した財界人がいる。経済にかぎらず政治にしても、否、もっと根本的に、哲学にしても、倫理にしても、トランプの出現以降、世界は大きく変わりはじめた。

 一言でいえば、トランプの出現は正直者の出現である。正直であるとは、政治と正反対であるという意味だ。それまでの政治といえば、嘘の塊だった。その点で、トランプは型破りなのである。

 トランプは決して嘘を言わない、などと言いたいのではない。彼は自分の思いを率直に言葉にできる、政治家らしくない政治家だと言いたいのだ。正直者と「馬鹿正直」を一緒にはできない。並みでない集中力の持ち主で、相手にふっかけて反応を見、その反応に応じて次の方策を決める彼のような政治家は稀なのである。彼と直接付き合いのあった日本人ビジネスマンは言っていた、「ともかく、地の頭がすごく良いんです」と。

 そのような超ビジネスマンが、ここ数十年続いてきたマンネリ化した国際政治を一刀両断してしまった。それまでの嘘で固められた政治信条をことごとくぶち壊したのである。その結果、冷戦構造が意味をなさなくなった。相変わらず嘘にすがろうとする日本などは、どうしてよいかわからなくなり、判断能力停止の状態に陥ったのである。朝鮮半島では、南北統一の悲願実現という妙な幻想がふくらんでしまったが、これもトランプが金正恩をおだてた結果である。中国は今や世界の敵となってしまったが、そもそも習近平の覇道路線に拍車がかかったのも、トランプの強力な押し込みがあったからである。ヨーロッパにしても、イギリスがEU離脱を加速させたのも、トランプあってのことだ。第二次大戦後ずっと続いてきたヨーロッパの嘘が、トランプの「正直」によって白日の下にさらされたのだ。

 トランプが大統領になったことで、アメリカが分断されたといわれる。しかし、もともと分断されていたものが、彼の出現ではっきりしただけのことである。すべてトランプのせいであると片付けるのは簡単だが、問題のないところに問題を生み出すほどの力は、彼にはない。彼の能力は、問題を見えなくさせる嘘のヴェールをはがすことである。アメリカは人種差別が激しい。オバマ大統領の出現でそれを乗り越えたかに見えて、トランプが出てきたとたん、本性が明るみに出た。

 そのようなトランプであるから、コロナウィルス事件に対する中国政府の一連のやり方には相当に頭にきている。内心、アジアとまともに向き合える最初の大統領になろうと思っていたかもしれない彼は、中国政府と胸襟を開いて対話したかったはずだ。ところが現在の中国政府は、客家の鄧小平もいなければ、日本語もフランス語も達者だった周恩来のような国際人もいない、ただの田舎者集団である。あまりにも世界情勢を知らず、1人で自分を偉いと思っている無知蒙昧さ。中国がそんな国だったとは、彼でなくても誰もが驚く。

 人間付き合い、たとえ国家間でも、最低限の信頼は必要である。習近平はそれを裏切った。国内政治でならそういう裏切りも功を奏することがあるかもしれないが、国際政治でそれをしてしまうとは。

 トランプは大統領選挙のために中国叩きをしている、という見方は浅薄である。彼が普通の政治家でないことを、もっとしっかり見るべきなのである。

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