新型コロナ後の世界~「石油・エネルギー」の行方を考察!(2)
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(有)エナジー・ジオポリティクス代表取締役 渋谷 祐 氏
4月20日、ニューヨーク原油市場の指標となる「WTI」(ウエスト・テキサス・インターミディエート)5月物の先物価格が前週末の1バレル18ドル台から、マイナス37.63ドルに大暴落した。史上初のマイナス価格が世界を震撼させた。急落の原因は、新型コロナウイルスの感染拡大が「パンデミック」になり、世界経済が急減速したこと、それに輪をかけて、OPECとロシアなど「OPECプラス」産油国の協調減産体制が崩壊したことにある。その後、一時1バレル30ドルまで持ち直すなどしているが、先行きには不透明感が漂う。渋谷 祐 (有)エナジー・ジオポリティクス代表取締役・(一社)中国研究所 21世紀シルクロード研究会 代表に聞いた。
石油安定供給を確保するための3つの政策が成立
――今回、トイレットペーパーが当初なくなりましたが、銀座・新宿などのネオンサイン、東京タワーやスカイツリーの灯りなどは消えませんでした。それはなぜですか。
渋谷 大事なポイントです。日本は1973年の「石油ショック」に懲りて、また多くを学び、今後はライフライン(石油、電力、ガス、水道など)を堅持できる体制を整えようという動きが起こり、その政策に全力投球しました。たとえば、石油に関していえば、当時約50日分弱の備蓄しかありませんでしたが、現在は約200日分(輸入量ベースで)の原油備蓄があります。これは供給が不足したときに需要に回す分です。今回は需要も影響を受けたため、供給が大きく不足することはありませんでした。
2度のオイルショックを経験した日本では、エネルギーの安定的な供給を確保することが国の将来を左右する最重要課題であると改めて位置づけられ、70~80年代に下記の3つの施策が打ち出されました。これらの基本的な考え方は、現在にも受け継がれています。
(1)石油の安定的な確保を図る
73年に「石油需給適正化法」を制定。石油の大幅な供給不足が起こった場合、需給の適正化を図るため、国が石油精製業者などに石油生産計画などの作成の指示ができるといったことを定めました。(2)貴重な資源である石油を大切に効率的に使う
79年に「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)」を制定。工場や輸送、建築物や機械などについて、効率的なエネルギーの利用に努めるよう求めました。(3)エネルギー源の多様化を進め、石油依存率を下げる
80年には「石油代替エネルギーの開発および導入の促進に関する法律(代エネ法)」を制定。石油に代わるエネルギーの開発・導入を打ち出しました。市場予想を裏切り初のマイナス価格になりました
――ニューヨーク先物原油市場の指標となる「WTI」(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は4月に史上初のマイナス価格となり、世界が震撼しました。
渋谷 「WTI」は西テキサスの米国産石油の代表ですが、世界の原油市場の指標でもあります。原油と石油を分けて考えることが必要です。石油とは原油から不純物を取り除いた、天然ガス、ガソリン、ナフサ、ジェット燃料や軽油などの石油製品のことを言います。今、この石油製品の需要が激減しています。
新型コロナ後の世界の原油市場を考える際のポイントは2つあります。1つ目は、新型コロナの影響で買い手がいなくなったことです。2つ目は、原油の供給が過剰になり原油価格が落ちたことです。専門家の間では、1バレル5ドル~10ドル程度(新型コロナ以前は1バレル約20ドル)までは予測したのですが、それを大きく裏切りマイナス価格となりました。マイナス価格はWTIでは史上初めてだったので、市場関係者を驚かせました。
(つづく)
【金木 亮憲】
<プロフィール>
渋谷 祐(しぶたに・ゆう)
1942年兵庫県西宮市生。慶応義塾大学商学部卒。石油連盟入局(外国調査部、68年)、外務省入省、中近東2課配属、75年-78年、在クウェート日本大使館書記官(UAE、バーレンおよびカタール大使館書記官兼務)、北極石油(株)調査役(82年-84年、カナダ石油開発プロジェクト)、ジェトロ・ロンドン石油資源部長(88年-92年)、石油連盟環境保全課長、広報課長、外国調査部次長など(92-96年)、中東経済研究所主任研究員(2003年)、アジア・太平洋エネルギーフォーラム設立幹事・研究主幹(1996年-2003年)、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科特別研究員(06~12年)、早稲田大学総合研究機構中華経済研究所招聘研究員(10~14年)。
現職として、(有)エナジー・ジオポリティクス設立代表(03年6月~)、MECインターナショナル・シニアコンサルタント(英国、07年~)、早稲田大学資源戦略研究所事務局長兼主任研究員(12年7月~)、(一社)中国研究所所員(11年~、21世紀シルクロード研究会世話人代表)、ウインザー・エネルギーグループ(英国、グローバルエネルギー地政学)およびキヤノングローバル戦略研究所北東アジア研究会メンバーなどを務める。関連記事
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