2024年12月28日( 土 )

前駐ベトナム大使・梅田邦夫氏特別講演レポート「日本にとってのベトナムの重要性」(2)

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 NetIB-Newsでは、DEVNET INTERNATIONALから提供いただいた前駐ベトナム日本国大使・梅田邦夫氏の講演レポート((公社)ベトナム協会)を紹介する。今回は「ベトナムが日本にとって重要になった2つの理由」について。


ベトナムが日本にとって重要になった2つの理由

 第一の理由は、安全保障分野で、今や、ベトナムは日本と米国にとってアジアでもっとも信頼できるパートナーになったことです。

 中国の大国化、最近の南シナ海・東シナ海での攻撃的動き、中国によるアセアンの分断化が東アジアの政治・安全保障環境を大きく変化させました。

 ここでは、日越関係に加えて、ベトナムとアセアン、中越関係、米越関係、韓越関係の動きを見ることによって、政治・安全保障分野でベトナムが重要性と存在感を増していることをみてみたいと思います。

過去10年の南シナ海における中国の主な動き

2012年
 中国はスカボロー環礁からフィリピン漁船を追い出した。現在も中国が実効支配。
2012年
 ASEAN外相会議(於プノンペン)で共同声明が史上初めて発出できなかった。理由は、中国の意を受けたカンボジアの反対(アセアン分断化の顕在化)。
2014年
 中国の石油リグがベトナムの排他的経済水域内で活動。ベトナム国内では、激しい反中抗議が全国的に発生。中国は最終的には石油リグを引き上げた。
2014年
 中国が南シナ海に人工島の造成・軍事基地化を開始。
2015年
 米国は「航行の自由作戦」を開始。
2016年
 中国の主張を全面的に退けた「ハーグ仲裁裁判所の判断」(比が提訴)が出たが、中国は「紙くず」と呼んで、判決を無視。
2017年
 中国共産党大会における習近平総書記・国家主席の「強国宣言」、18年の全人代における国家主席の任期撤廃。これが米の対中認識を大きく変化させた。ベトナム人有識者の1人は、「おそらく、これが習近平体制の終わりの始まりになる可能性がある」と語っていました。
2019年
 7月から4カ月近くの間、ベトナム政府の抗議にもかかわらず、中国の調査船はベトナムの排他的経済水域内にとどまった。今回は、14年のように国民の間に激しい反応を生まないように、ベトナムは国内報道を抑制。
2020年4月
 南シナ海で中国海洋警察の船がベトナム漁船に追突し、沈没させた。また、三沙市の行政区(西沙区、南沙区)を新たに設置・公表。

(参考)東シナ海では09~10年以降、中国は日本の領海、接続水域への侵入を繰り返している。今年4月、中国の公船が日本の領海内で日本漁船を追尾し、また、空母「遼寧」など6隻を沖縄本島と宮古島との間で往復。

 中国は、10年、GDPで日本を抜きました。公表されている軍事予算でも、同じころ、日本を抜きました。今や、中国は世界第2位の軍事大国および経済大国として、「韜光養晦」(鄧小平が出した外交方針で、「低姿勢で力を蓄える」の意)を放棄し、自国の国益をむき出しにした対外行動をとるようになっています。ベトナムと日本は、南シナ海と東シナ海で中国の圧力に直面しています。

 中国の本音は、「言葉」ではなく「行動」をよく見て判断することが重要です。自国にとって都合の悪いことを隠蔽し、詭弁を弄することは、常套手段です。自分の誤りや責任は、認めません。
 南シナ海、東シナ海での動きに加え、新疆ウイグル(同化政策、宗教弾圧)、チベット(同化政策、宗教弾圧)、香港(国家安全法制定)、台湾、一帯一路などに係る言動、国内での監視強化、言論弾圧などを見ればよく理解できます。

 また、中国は、「力の信奉者」であり、「力の空白」が好きです。南シナ海では、過去50年間に3回「力の空白」が発生しましたが、中国は毎回行動を起こしています。そのうち、2回はベトナムが対象でした。

(1)1974年―ベトナム戦争末期、アメリカ軍のプレゼンスがなくなった機会に、西沙諸島(英語名:パラセル諸島)をベトナムから武力で奪いました。

(2)1988年―冷戦末期、南シナ海に展開していたソ連海軍のプレゼンスがなくなった機会に、中国は南シナ海の6つの環礁を武力で占拠しました。
 ベトナムは、中国に支援されたクメールルージュ討伐のために、カンボジアに侵攻していたことから、80年代は国際的に孤立し、最貧国でした。
 中国は2014年以降、この当時奪った環礁を人工島として埋め立て、軍事基地化しています。

(3)1992年―米軍がスービック海軍基地およびクラーク空軍基地から撤退しました。
 その3年後の95年、中国は、ミスチーフ礁(南沙諸島)を占領しました。現在ミスチーフ礁は、人工島となり、中国の軍事基地となっています。

(つづく)

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