2024年11月14日( 木 )

【政界Watch】河井夫妻逮捕に揺れる安倍政権 イージス白紙撤回で菅官房長官との対立も顕在化

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平成版“保徳戦争”は首相直結案件

 東京地検は6月18日、公職選挙法違反(買収)容疑で河井克行・前法務大臣(広島3区)と河井案里・参院議員(広島選挙区)を逮捕、安倍政権に大打撃を与えた。克行氏を法務大臣に抜擢した安倍首相は、任命責任はもちろん、党本部から案里氏に1億5,000万円も提供した自民党総裁としての責任も免れない。

 同じ広島選挙区(定数2)の現職候補の溝手顕正・参院議員(落選)には1桁少ない1,500万円しか提供せず、首相が嫌う溝手氏を落とすために案里氏を刺客として送り込んだ、“安倍ヘイト選挙”と呼ぶのがぴったりの首相直結案件である。

 一応、表向きは「自民2議席独占」が目的とされたが、第1次安倍政権崩壊後に安倍首相を「過去の人」と指摘した溝手氏を落選させるのが主目的であるのは明らかだった。中選挙区時代に唯一の1人区だった「奄美群島区」での“保徳戦争”(弁護士の保岡興治氏と徳洲会創業者の徳田虎雄氏の一騎打ち)は、数十億円単位の現金が飛び交い、相手陣営の有力者を寝返りさせるために買収資金が配られた。同じように昨年の参院選広島選挙区でも、克行氏が地元の首長や地方議員に現金を配り、元防災担当大臣で岸田派重鎮でもある溝手氏の支援者を切り崩そうとしたようにみえた。

 まさに安倍首相(兼自民党総裁)の意向に従って“安倍ヘイト選挙”がスタート、河井夫妻(夫が選挙参謀で妻が刺客候補)に1億5,000万円が提供され、買収が実行に移された。“実行部隊”の河井夫妻が逮捕されたのに続いて捜査の第2段階では、資金提供をした安倍首相ら“司令塔側”に捜査のメスが入っても不思議ではない。

 安倍政権を直撃した河井夫妻逮捕と前後して、政権末期状態を物語る光景が出現。首相肝煎りの政策が覆され始めた。

イージス・アショア配備計画が白紙撤回

イージスアショア配備予定地だった秋田の自衛隊演習場

 河野太郎・防衛大臣は6月15日、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を停止すると表明をした。安倍首相の了解を得た上で、配備予定の秋田県と山口県の知事にも報告したというのだ。安倍首相も国会答弁で追認、事実上の白紙撤回となった。

 ただし、購入の経過を振り返ると、当初からイージス・アショアが税金の無駄であることは明らかであった。 

 2017年11月の日米首脳会談で安倍首相は米国からの兵器大量購入の要請を快諾。翌12月にイージス・アショア2基購入が閣議決定された。しかしすでに防衛省はイージス艦を4隻から8隻にする計画を進めており、イージス艦2隻分の稼働が1隻で済む「システム進化(性能向上)」も進行中。イージス・アショアを新たに購入する必要性は皆無に等しかったのだ。しかも複数の軍事評論家が「米軍基地のあるハワイとグアム防衛が目的。日本防衛のためなら北朝鮮と東京の間の能登半島周辺が適地となる」と指摘していた。

イージスアショア配備の秋田選挙区の候補を応援した
菅官房長官だが、今は安倍首相と隙間風か

 なお、イージスシステムは強力な電波を発して弾道ミサイルを探知して迎撃するが、海上と陸上のどちらに配備するかで日本国民への影響はまったく違う。海上のイージス艦なら電波による健康被害も迎撃ミサイルから切り離す落下物(ブースター)のリスクもほとんどないが、陸上のイージス・アショアはこの2つの弊害だけでなく、有事の際に攻撃対象になるリスクも加わる。血税浪費に加えて、日本国民の生命安全を損なう恐れがあるイージス・アショア配備は、トランプ大統領に物申せない“安倍米国下僕政治”の産物でしかなかったのだ。

背景には安倍首相と菅義偉官房長官の対立

忖度議員(塚田一郎元副大臣)は応援する
好き嫌いが激しい安倍首相

 しかし、安倍政権が揺らぎ始めるまではイージス・アショアは見直されることはなかったが、末期状態に入った途端、以前から税金の無駄を追及してきた河野氏が白紙撤回に導く政治決断をしたのだ。トランプ大統領との“蜜月関係”(実際は下僕状態)をアピールしてきた安倍首相に異論をぶつける閣僚が登場し始めたともいえる。永田町ウォッチャーはこう話す。

 「背景には、ポスト安倍をめぐる首相と菅義偉・官房長官の対立が見え隠れします。神奈川県が選挙区の河野氏と小泉進次郎・環境大臣は、菅氏(神奈川4区)がともに有力視する次期総裁候補と見られています。その1人である河野氏が、安倍首相主導で決まったイージス・アショアを白紙撤回させた。ポスト安倍を睨んで“安倍米国下僕政治”の象徴的産物を葬り去ったともいえます。菅氏は秋田出身ですが、生まれ故郷に米国防衛のための前線基地が配備されることへの怒りも垣間見えます。『安倍首相 対 菅官房長官』のバトルがさらに本格化したのは間違いない」

辺野古見直し発言の中谷元・元防衛大臣(中央)

 イージス・アショアの白紙撤回の後、中谷元・元防衛大臣は6月15日のBS番組で、辺野古新基地建設について「十数年、1兆円かかる。完成までに国際情勢は変わっている」と不合理性を訴えた。もう1つの“安倍米国下僕政治”の産物といえる辺野古埋め立てに対しても異議申立てが出始めたのだ。

 第2次安倍政権下では皆無に等しかった歯切れの良い発言が現閣僚と元閣僚から出始めたことは、現政権の“負の遺産”を清算しようとするポスト安倍の動きが本格化したようにもみえる。河井夫妻逮捕で一気に安倍政権瓦解の雰囲気が漂い始めた永田町から目が離せない。

【ジャーナリスト/横田 一】

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