2024年12月05日( 木 )

「芸術は道楽か?」

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 福岡を拠点に、絵画や演劇など幅広い芸術活動を行う芸術家・中島淳一氏。同氏による日本と欧州の芸術に対する姿勢についての論評を以下に紹介する。


 芸術支援は最優先事項。連邦政府は芸術支援を優先順位リストの一番上に置いているという、ドイツのメルケル首相が5月9日に行った演説に感銘を受けたのは私だけではあるまい。活動停止を余儀なくされ、闇を彷徨い、呻吟している日本中のアーティストたちが深い感動とともに、我が国との違いに嘆息を洩らしたに違いない。国家の非常事態に際して「芸術支援は最優先事項」などと仮に日本の首相が言おうものなら、国民はどんな反応を示すのだろうか。血迷ったことをいうな。芸術なんぞは一番最後だろうが…。みんな安定した生活ができてからこその芸術ではないか。芸術は道楽だろう。芸術家はただ好きなことをやって生きてるだけじゃないか。今までさんざん好きにやってきたんだから、自己責任で解決しろ。できなきゃ、廃業しろ。国の支援など必要ない。などといわれるのがおちかもしれない。あくまでも一般論ではあるが、政治家、官僚、国民に至るまで、本音はそんなところのような気がする。

 ところが、ドイツはどうか。「ドイツは⽂化国家であり、我々は美術館、劇場、オペラハウス、⽂芸クラブなどで催される多彩な芸術的パフォーマンスに誇りをもっている。それらの芸術が表現しているのは、我々自身であり、我々のアイデンティティーでもあるからだ。我々は芸術⽂化によって過去をより良く理解し、またまったく新しい眼差しで未来へ⽬を向けることもできるのである」とメルケル首相はいう。かくして、コロナウイルスによるパンデミックに深刻な影響を受けている多くの著名な劇団や楽団のみならず、フリーランスの芸術家たちをも積極的に支援するのである。
 しかも、ドイツに在住している外国人のアーティストに対しても支援は惜しみなく行われる。

 芸術に対する捉え方が根本的に違うような気がする。
 彼らにとって芸術は道楽などではなく、人生の本質に属する哲学であり、精神そのものなのである。

 かつて、ヨーロッパで出会った日本人の彫刻家から話を聞いたことがある。日本では彫刻はなかなか食えない。ドイツでは建物を建てるとき、必ず全予算の何パーセントかを彫刻を含む芸術作品にあてなければならない法律がある。だから、よく、ドイツに呼ばれて仕事をするのだと。また、プラハに在住している日本人の人形師による「マクベス」の人形劇をブラディスラヴアで観る機会があった。あまりにも素晴らしく、東京ではやらないのかと訊くと、やったけど観客が集まらず、まったく注目もされなかった。プラハにいれば上演の機会も多く、生きていくことができるが、日本では生活ができないので帰れないのだと。

 一般の日本人の芸術に対する感性は決して低いとは思わない。むしろかなり高いのではないかと思っている。
 ただ、うまく噛み合っていないだけのことだ。
 政府の支援もまた然り、うまく機能すれば、貴重な劇団も交響楽団も、将来大輪の花を咲かせるかもしれない無名のアーティストたちも、コロナを乗り越えて存続することができるだろう。今こそ道楽を仏教本来の深い意味で捉える時ではないだろうか。

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