ストラテジーブレティン(256号)~日本を蘇生に導くハイテク大ブーム~米中対決のカギを握る半導体、言わば現代の石油(4)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。今回は2020年7月13日付の記事を紹介。
(4) 米中ハイテク対決の天王山-I. ファーウェイ
ビヒモス化したファーウェイ、米国が力づくで封じ込め
ハイテク覇権争いは一見、中国に有利に展開している。世界最先端の5G通信機メーカーはファーウェイである。基地局では技術力、競争力で他を圧倒している。2019年通信基地局の世界シェアは、ファーウェイ34.4%、エリクソン24.1%、ノキア19.2%、ZTE10.2%、サムスン電子8.9%、NEC0.7%、富士通0.6%と、他を引き離している(英調査会社オムディア調べ)。技術力のメルクマールとされている5G標準必要特許件数は3,147件、シェア15.2%とトップであり、2位以下を引き離す勢いにある(ドイツ特許情報サービス企業アイプリティクス調べ2020年1月現在)。
スマホシェアも首位サムスンに肉薄。2020年1Qの世界シェアは、サムスン20%につぎ第二位の17%、第三位のアップル14%を大きく引き離している。米国のファーウェイ排除要請に対してイギリスを除き欧州諸国が追随しないのはその技術優位とコスト競争力の図抜けた強さによる。「全従業員の45%に相当する8万人がR&Dに従事(うち基礎研究に1.5万人、博士6,000人)、2019年は売上高の15%に当たる189億ドルをR&Dに回した」(日経エレクトロニクス、東京理科大学教授若林秀樹氏)とされている。
ファーウェイ躍進は国家資本主義によるソーシャルダンピングの結果といえる
今やファーウェイの強さは普通の市場競争ではまったく抑えられないところにきている。なぜちょっと油断している隙にこんなことになったのだろうか。ファーウェイの圧倒的開発投資に原因がある。図表13に見るように、過去10年間にファーウェイの研究開発投資は10倍(2009年19億ドルが2019年189億ドルへ)になったが、この10年間、ほかの企業はほぼ横ばいという驚くべき実態がある。
このファーウェイの圧倒的投資は国策による支援があったからとしか考えられない。政府支援の下で圧倒的価格競争力をもったファーウェイが、市場価格に基づく高コストの他企業を圧倒し、通信機産業全体の企業収益が破壊され、他者がまったく対抗できない事態が引き起こされたことは明白である。国家資本主義によるソーシャルダンピングの典型例といえる。
米国政府内では国産通信機企業育成の可能性が検討され、シスコなど関連メーカーにエリクソン、ノキアの買収、あるいは資本参加を呼び掛けたが、シスコなどの米国メーカーは、それら企業は低収益でとてもではないが買収対象ではないと断ったと伝えられる。
ファーウェイ叩きしか手は残されていない
米国はファーウェイを国防上の脅威と認定し、2019年の国防授権法以降、次々に制裁を強化してきた。まず米国政府機関のファーウェイからの調達を禁止、さらにはファーウェイに対する米国企業による禁輸、他国製品でも米国製コンポーネントの割合が25%以上の製品の禁輸(TSMCのファーウェイへの供給停止はこれに基づく)、と展開されている。
ファーウェイは米国メーカーからの半導体輸入とともに傘下の半導体設計会社ハイシリコン設計の半導体をTSMCに生産委託してきた。これらを含めTSMCの全売上の16%がフアーウェイ向けであったが、この取引が5月ですべて遮断された。ファーウェイは事前に在庫を積み増しており、一年程度は耐えられると見られているが、この先半導体入手困難避けられない。またファーウェイは昨年からGoogleのアプリを利用できなくなっており、スマホにおいてもグローバル展開が困難になっている。さらにイギリスに続きフランスでも米国の要請に応じ、ファーウェイ製品のシェアを段階的に引き下げる意向が伝えられている。こうなるとドイツのメルケル首相も追随せざるを得なくなるだろう。
(つづく)
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