2024年11月23日( 土 )

ストラテジーブレティン(256号)~日本を蘇生に導くハイテク大ブーム~米中対決のカギを握る半導体、言わば現代の石油(5)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。今回は2020年7月13日付の記事を紹介。


(5)米中ハイテク対決の天王山-II. 中国で半導体産業育成の大プロジェクト始動、中国内で熱狂ブームが

 5Gで大きく先行する中国のボトルネックは半導体である。コロナショックの景気対策として展開されているデジタルインフラ投資と並行し、政府による競争力強化は今半導体で展開されている。テレビ、PC、スマホなどエレクトロニクス製品の生産では世界の大半を制しているが、半導体だけは国産化率15%と極めて低い。しかもその過半は外資系企業によるもので、中国企業だけでみた国産化率は4.2%(IC Insights)に過ぎず、調達の5割は米国メーカーに依存している。

 この半導体対外依存を的として米国が攻勢を強めている。ファーウェイに対する供給禁止だけでなく、中国半導体投資に対する機器供給禁止(2018年中国DRAMメーカーJHICC福建省晋華集成電路、に対して産業スパイ容疑で米国製装置・技術の販売を禁止し同社のライン建設はとん挫)が実施されてきた。世界シェア5割を保有し、最先端EUVを使った7nmの微細化の最先端を走り、ファーウェイに対しても半導体の過半を供給してきたTSMCが米国の要求により、ファーウェイへの供給を遮断したことは、中国の危機感を高めた。

 中国はファーウェイなどハイテクで次々と成し遂げてきた成功モデルを半導体で再現しようとしている。2025年までに今15%の国産化シェアを70%にする(中国製造2025)という、壮大な旗を堅持している。国家資金+市場からの調達が実施に移され、人と資本が半導体に群がっている。太陽電池、自動車バッテリー、ドローン、監視カメラ、液晶FPD、での成功の夢を再び半導体でというわけである。半導体をめぐってビジネスと市場で熱狂が高まっている。

 この半導体国産化の主役は中央・地方の財政資金と民間資金を糾合した国家半導体ファンドである。2014年創設の第1期ファンド196億ドル(1,387億元)は2019年で終了、NANDフラッシュの長江ストレージ(YMTC)や、DRAMの合肥長鑫存儲技術(CXMT、旧イノトロン)が初期商業量産段階に入ったが、ファンドの支援が大きかったと思われる。

 2019年に第2期ファンド289億ドル(2,041億元)が創設された。ファーウェイとの取引を断たれたTSMCに代わる受託生産企業として期待されるSMIC(中芯国際集成電路製造)や、半導体製造装置関連企業等にも投資し、中国の自足的半導体サプライチェーンの構築を目指すとみられている。

だが米国がストップ、キャッチアップは無理だろう

 今回に限ってはこのチャイニーズドリームの実現は困難だろう。第1に米国の対ファーウェイ取引遮断により、先端技術の導入が不可能になったことがある。アーム(ソフトバンク子会社)は先端高機能・低電力のスマホCPU用アーキテクチャーを独占供給しているが、米国の禁輸措置により対中サービスが絶たれた。また最先端の線幅7nmに必須のEUV(極端紫外線)露光装置を唯一供給しているASLM(オランダ)もSMICなど中国企業への納入を停止した。ファーウェイは傘下にハイシリコンという技術力の高い半導体設計会社をもっているが、線幅10~7nm以下の最先端の半導体入手は不可能である。

 第2に、米国の対中制裁の意志は固いので、対中禁輸の対象をいくらでも拡大することが可能である。また他国の企業であっても、米国製コンポーネント(部品・素材・装置・ソフト)が25%以上の割合を持つ製品のファーウェイに対する輸出は禁止となっているが、米国製コンポーネント比率を10%、5%と引き下げることも可能である。

 ファーウェイの5G関連機器は日本企業にとっては大きな市場である。村田製作所のMLCC(積層セラミックコンデンサー)やアンリツの計測機器など、ファーウェイは2020年中に日本企業から約100億ドルの部品を調達する(梁華会長)と報道されている(WSJ6/30)。これら日本企業は米国製コンポーネント比率が低く今のところ規制の対象にはなっていないが、米国製コンポーネントがゼロということはないだろう。ファーウェイを安全保障上の脅威と認定した今となっては、今のところ白とみられる対中輸出も禁輸の対象に含まれてくる可能性もあるだろう(6.30WSJ) 

 もつとも図表15に見るように米国半導体企業の最大の顧客は中国向けであり、これがすべて直ちに遮断されることは考えられない。米国のハイテク企業であっても、最先端ではない技術製品、ファーウェイ、ハイクビジョンなど安全保障上の脅威リスト(エンティティーリスト)に挙げられていない企業に対しては供給が続けられる、と考えられる。

 このように米国がありとあらゆる手段を繰り出し始めた以上、中国のハイテク覇権追及はファーウェイであれ半導体であれ、とん挫するほかないだろう。米国調査会社IC Insightsは2024年でも国産化率は21%にとどまると予想している。

(つづく)

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