ストラテジーブレティン(256号)~日本を蘇生に導くハイテク大ブーム~米中対決のカギを握る半導体、言わば現代の石油(7)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。今回は2020年7月13日付の記事を紹介。
(7) 日本は米中ハイテク覇権争いの最大の受益者だ
日本のハイテク産業集積を壊した地政学が、今は追い風に
こうした地政学展開は、日本にとっては有利である。2011年3月、東洋経済より『失われた20年の終わり~地政学で見る日本経済』を上梓した。その趣旨は、米国による日本たたきと円高により、日本のハイテク産業集積が破壊され、テレビ、パソコン、携帯電話、半導体などでことごとく敗退し、失われた20年がもたらされた。しかし、米中対立により地政学が日本に対する逆風から順風に変わり、日本が依然として維持している先端技術が新たな産業集積を引き起こす、との主張であった。今、長期にわたって続いた日本産業の凋落が大きく転換する場面にきている、と確信できる。
依然日本はアジアハイテク産業集積の要
そもそも、世界半導体生産の7割以上が極東アジアの4カ国、韓国、台湾、日本、中国に集中しているが、それはなぜだろうか。日米貿易摩擦により日本における半導体生産が著しく困難化したからである。行き場を失った日本の技術者、素材・装置・部品などのサプライ企業は、韓国、台湾、中国に土俵を求め、現地ニーズとも相まってそこに産業集積が形成されたのである。いわば30年前日本だけに存在していたハイテク産業クラスターが、東アジア全域に拡大した、といえる。
しかし依然として日本は、韓国、台湾、中国が必要とする最先端のサプライを一手に供給し、東アジア全体のハイテク産業クラスターの土台を担っている。図表22に見るように世界の半導体製造装置は日米でほぼ独占しており、トップ15社中日本企業は8社となっている。図表23には高シェアを誇る日本のハイテク素材企業一覧を示している。一国内で半導体の川上から川下まで一貫して生産できる能力・技術を備えているのは世界で唯一日本だけだろう。
米中対決で日本を除く東アジア(中国、台湾、韓国)のリスクが高まれば、再度ハイテククラスターを日本中心に組み替えようという動きが出てくるのは必至であろう。日本の半導体工場はエルピーダメモリーから買収した広島工場を擁するマイクロンテクノロジー、東芝(現・キオクシア)と工場を共有するウエスタンデジタルのNANDフラッシュの四日市工場など、米系企業がほぼ半分を支配している。米国の安全保障の見地から、TSMCはアリゾナに工場建設を決めたわけである。米国内建設とともに信頼できる同盟国である日本での供給力増強も有効な手立てであろう。
地政学によって失われた日本の国際分業上のプレゼンス(=ハイテク産業クラスターの中心)が、地政学によって復活する、という基本線を抑えておくべきであろう。
(了)
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