ソフトバンクの半導体企業ARM売却は、はたして成功するのか(後)
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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏
ソフトバンクのARM売却の理由は?
ソフトバンクはなぜ急遽ARM売却を検討しているのか。ソフトバンクは、20年3月期通期の連結決算で、9,616億円という過去最大の最終赤字を計上したが、その主な原因は17年に立ち上げたソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先企業の低迷だ。コロナショックによる米国のウーバー・テクノロジーズの株価下落や、シェアオフィス「ウィーワーク」を運営するウィーカンパニーの価値下落などが大きく影響を与えている。ソフトバンクは、その巨額損失を補てんするため、アリババ株の一部を手放し、約1兆2,000億円を調達したが、今回のARMの売却はその流れの一環である。
ARMはCPU開発のために1990年に英国で設立された会社である。CPUの王者である米国のインテルに対抗するため、低電力で、命令語が簡略化されたRISC方式を採用した。当時の市場はデスクトップ市場がメインのためインテルにはかなわなかった。しかし、デスクトップから携帯電話に市場の軸足が移り、ARMは大きな成功を収めるようになった。
ARMは生産設備をもたない世界最大の半導体設計企業で、さまざまな半導体会社に半導体設計図を販売することで、ライセンス収益を上げている。なかでも携帯電話のCPUに該当するAP(Application Processor)の設計を得意としており、サムスン、ファーウェイ、アップル、クアルコムなどはARMの設計図を購入し、それをベースに設計をしている。スマホ需要の増加にともない、ARMの設計図需要も伸びつつあるのだ。
ARMの買い手はどの企業か?~アップル、サムスン、インテル、台湾のTSMCか
今後は、どの企業がARMの買い手になるだろうか。一番に名が挙がっているアップルは十分な資金力を有し、インテルのCPUを使用せずに自社でスマホのCPUを開発しようとしているので、候補の1つになるだろう。しかし、アップルがARMを買収すると、他社にとっては技術面でアップルの支配下に入ることを意味するため、懸念するのではないか。また、価格がアップルの意のままになることも避けたいところだ。
一方で、韓国のサムスン、インテル、台湾のTSMCなども買収企業の候補として挙がっている。サムスンも十分な資金力を有しているが、顧客が離脱することを恐れているため、簡単に買収を実現できる立場ではない。ファウンドリー事業ではサムスンのライバルであるTSMCも、買収する可能性は十分ある。しかし、ファウンドリー企業が設計分野まで獲得すると、サムスンはTSMCとの差を縮められなくなるだろう。インテルにとっては、モバイル時代のCPU市場を手中に収められる良い選択となるが、十分な資金を確保できていない。
上記のように、半導体関連企業がARMを買収する可能性が出てくると「半導体市場のバランスが崩れ、混乱を招きかねない」と業界は神経を尖らせているわけだ。そのため、ソフトバングは半導体関連以外の企業の買収、もしくはIPOを選ぶことになるだろうというのが業界の専門家の予測である。
まだ結果は出ていないが、今回のARM買収で業界に大きな変化が起こる可能性がある。半導体企業がARMを買収すると、残りの企業はARM以外の設計会社と組み直すことになり、新しい秩序が生まれるかもしれない。「ARMの1強時代」が続くのか、それとも市場には新しい秩序が生まれるのか、もう少し様子を見る必要があるだろう。
(了)
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