2024年07月16日( 火 )

ストラテジーブレティン(257号)~敵対関係に入った米中、その経済・投資への含意(中)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。今回は2020年7月26日付の記事を紹介。


(2)米国は対中長期戦略を確立、武力行使など極論的展開があり得る

 トランプ氏を支持する政治学の権威ウォルター・ラッセル・ミード氏は WSJ 紙上の論説で、「自由主義諸国は北京の新共産主義(or デジタルレーニン主義)の危険性に覚醒した、新共産主義はレーニンの共産主義よりはるかに危険、新共産主義による世界支配を許さない政策が必要だ」と主張した。トランプ政権は腹を固め中国の野望を打ち破る戦略を確立したと見るべきである。それは中国統治の根幹である共産党体制の変革に行き着くものであるだろう。中国共産党を変革すべき対象(=事実上の敵)とすれば、もはや口実は必要ない。どんな手でも打てる。

極論(1) 米国は中国共産党打倒の長期戦略を確立している

 こうなってくると極論と見える観測が正鵠である可能性が大きくなる。トランプ大統領の元首席戦略官のスティーブ・バノン氏は米 FOX ニュースとのインタビュー(7/20)で、トランプ大統領は中国共産党に対して「一貫性のある計画」を策定している、まず中国共産党と「対抗」し、次に中国共産党を「崩壊させる」という2つのステップで計画を進めている、と述べている。

極論(2) 限定的武力攻撃、たとえば南シナ海人工島爆撃が起きる

 ジャーナリスト近藤大介氏はインターネットメディア現代ビジネス(7/21)で、「トランプ政権が最後の賭けに出る可能性がある。中国と局地戦争を起こすことだ。アメリカ軍が、南シナ海に中国が建造した人工島を攻撃する。これから2~3カ月後、こんなキナ臭い事態が起こりかねないほどに、米中間の緊張が高まりつつある。・・・武力戦争の可能性がある場所は、南シナ海と東シナ海(台湾近海や尖閣諸島近海も含む)である。なかでも、中国が習近平政権になってつくった南沙諸島の人工島は、中国の民間人はほとんどいないし、常設仲裁裁判所が「違法だ」と判決を下している。アメリカ軍が攻撃しても、人道的もしくは国際法的に責任を問われるリスクは少ないのだ。また、ポンペオ国務長官も述べているように、中国本土から1000kmも離れているため、中国との全面戦争にもなりにくい。それでいてアメリカ国内では、「悪の中国の建造物をぶち壊した」とアピールすれば、支持率を上げるだろう。大統領選挙には直接関係ないが、東南アジアの一部の国々も、喝采するかもしれない」。

中国の絶望的脆弱性、南シナ海、東シナ海

 南シナ海は中国にとって死活的ゾーンである。「米国を代表する戦略家の1人ジョージ・フリードマン氏は、中国が南・東シナ海に直面した東海岸の海上輸送路だけに依存する事実を『この絶望的脆弱性』と表現する」(『西太平洋の支配者は誰か』産経新聞 7/24)。

 独り占めしようとしている南シナ海の制海権が米国にあると見せつけられれば、中国は著しいショックを受けるであろう。また国際社会は世界の警察官を放棄したと侮っていた米国の力量と決意をリスペクトせざるを得なくなるだろう。

米国の軍事イニシャティブ活発化

 実際7月中南シナ海では2回にわたって米空母ミニッツとロナルド・レーガンによる合同演習が実施され、海上自衛隊は7月19~23日まで、南シナ海および西太平洋で、米空母打撃群とオーストラリア国防軍との3国共同訓練を実施している。フィリピン海での3カ国の海軍合同演習は、「自由で開かれたインド太平洋戦略」への 3カ国のコミットメントを確認し、共有する機会となっている。

 また台湾への武器供与(2019年の戦闘機 F16に続く魚雷、迎撃ミサイルパトリオット)、リムパックへの招待(かつて招いていた中国は招かず)など、台湾尊重があからさまである。

対中抑え込み政策を選挙争点要に据えるトランプ氏

 それにしてもなぜ対中敵対政策への転換が今なのか。第一は中国の横暴が容認できぬところにきたこと、香港国家安全法実施で英国が、国境紛争でインドが、invisible invasionとコロナ感染隠蔽 でオーストラリアが寛容ではいられなくなり、対中封鎖連携の機が熟した。第二にもっとも大きい要素は、トランプ氏が選挙政策の中心に、対中戦を据えたこと。対中攻勢、世論誘導は激しさを増すだろう。トランプ氏とバイデン氏は対中姿勢の厳しさをめぐって競うことになる。バイデン氏には不利に働くだろう。

(つづく)

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