ポストコロナ時代の新世界秩序と東アジアの安全保障(2)
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鹿児島大学 名誉教授 木村 朗 氏
「新型コロナウイルス危機」が起こってから、感染拡大防止のために都市封鎖や外出自粛が行われる一方で、経済活動が長期停滞するのを恐れて都市封鎖の解除や外出自粛の緩和が行われるなど、まさに混沌としている。しかし、コロナ危機の前後で私たちの社会と生活の前提が根本的に大きく変化したことや、急速なデジタル社会化が象徴しているようにこの変化が不可逆なものとなる可能性が高いことは明らかだ。
こうしたコロナ危機後の世界の有り様を踏まえて、ポストコロナ時代における新しい世界秩序を「東アジアの安全保障」という視点から考えてみたい。東アジアの安全保障環境の変化
(1)米インド太平洋軍の創設と米中覇権争いの新局面
米国はオバマ政権時代の2011年に、当時のヒラリー・クリントン国務長官が発表した「米国の太平洋世紀」と題する論文を基にした「リバランス(再均衡)政策」を掲げ、米軍の世界的再配置に着手した。
トランプ政権時代の18年5月には、「太平洋軍」を「インド太平洋軍」へと名称を改めた。さらに同年6月に、新アジア政策「インド太平洋戦略報告」の戦略概要を、19年6月にその詳細を公表した。これは、中国のインド太平洋地域での戦力増強と影響力の高まりに対抗意識を強めたため、オバマ政権の「リバランス(再均衡)政策」をトランプ政権で継承し、発展させたものだ。
一方で、安倍政権は、日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国が構成する「Quadrilateral」(四角形)で中国を包囲する「セキュリティダイヤモンド構想」を提起しており、それを継承した「自由で開かれたインド太平洋戦略」(以下FOIP、その後に「構想」)が、米国の「インド太平洋戦略報告」と基本的に内容が一致することを日米両国は合意している。
ジャーナリストの岡田充氏によると、その日米の共通戦略の最大の特徴は、「米軍の軍事的優勢は失われている」という現状認識から、インド太平洋地域での「中国との衝突」を意識して新たな「対中同盟」構築を鮮明にした点にある。第2に、日米は戦略を「共同の外交戦略」にすることで合意しており、日米が安全保障面で一体化し相互補完関係を推進すること。そして第3が台湾重視の姿勢である。一方、インドやASEANの打ち出した「インド太平洋戦略(構想)」とは、中国排除に与せず、対中同盟には否定的という点で決定的違いがあるという(岡田充「『対中同盟』の再構築狙う新戦略 日米一体の『インド太平洋戦略』」『海峡両岸論』第105号、2019年8月18日より)。
米国のインド太平洋軍司令官のフィリップ・S・デービッドソン(Philip S. Davidson)大将は、2020年2月に、「中国により、太平洋島嶼諸国の主権が脅かされ、地域の安定が損なわれている」と発言し、「中国の過度の領有権主張、借金漬け外交、国際協定の違反、国際財産の窃盗、軍事的脅迫、完全な腐敗」を理由に、米国は太平洋地域への中国進出を「全面的」に阻止する構えであることを明らかにした(『INDO-PACIFIC DEFENSE FORUM』より)。
20年1月、米中経済・貿易協定が調印され、過去2年半にわたり世界経済に大きな影響を与えてきた貿易戦争がとりあえず解消される見込みとはいえ、両国の覇権争いは経済、金融、軍事、安全保障と幅広い分野におよび、今後も長期間にわたって緊張や対立が続くと考えられる。
(つづく)
<プロフィール>
木村 朗氏(きむら・あきら)
1954年生まれ。鹿児島大学名誉教授。日本平和学会理事、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表、国際アジア共同体学会理事長、東アジア共同体研究所(琉球・沖縄センター)特別研究員、前九州平和教育研究協議会会長、川内原発差し止め訴訟原告団副団長。著書として、『危機の時代の平和学』(法律文化社)、共編著として、『沖縄自立と東アジア共同体』(花伝社)、『沖縄謀叛』(かもがわ出版)、『「昭和・平成」戦後日本の謀略史』(詩想社)、『誰がこの国を動かしているのか』、『株式会社化する日本』(詩想社新書)など著書多数。関連記事
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