【横田一の現場レポート】コロナ禍で需要落ち込みでもリニア建設に固執~背景に守旧派土建政治連合(前)
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リニア中央新幹線計画は国力を高める、のか
吉村洋文・大阪府知事よりも、水問題を理由にリニア中央新幹線のトンネル工事を認めない川勝平太・静岡県知事のほうが「コロナ時代のニューリーダー」と呼ぶのに相応しいのではないか――――。
こんな疑問が浮かんできたのは、7月29日の府知事会見だった。リニア中央新幹線について、吉村氏に「アフターコロナ時代においても『リニア新幹線が国家の経済力を高める』『計画を進めるべき』と考えているのか。再検証する考えはないのか」と質問すると、次のような推進論の回答が返ってきたのだ。
「リニア新幹線は、東京と大阪を1時間でつなぐ大動脈になります。『国家の国力を高める』という意味で、この時間で東と西の拠点をつなぐのは、まさに日本の成長そのものにつながってくると思っている。だから、もちろんコロナにおいてリモートワークなどはどんどん広がってくるとは思うが、こういった強力なインフラづくりは並行して進めていくべきだと思っている」(吉村府知事)
2週間前の会見でも、吉村氏はリニア中央新幹線を「国家的プロジェクト」と位置付けて、「一都道府県の主張で止まるのではなく、国が実行に移すことができるルールづくりをすべき」と訴えていた。
しかし新型コロナウイルスの感染拡大で東海道新幹線の利用客は約8割減、JR東海の2020年4~6月期連結決算の最終損益は、前年同期の「1,313億円の黒字」から「726億円の赤字」へと転じていた。しかもリモートワークの拡大で、感染拡大が収まってもコロナ前の乗客数に戻る保証もない。コロナ収束後の新幹線需要の戻り具合を見極めるまでは工事を凍結し、リニア中央新幹線の採算性やJR東海の投資余力をチェックすることが不可欠のはずだ。
そこで、「乗客数が減ってリニアが赤字垂れ流しになる恐れについては、検証やチェックする必要はないということか」と再質問をしたが、吉村氏は同じような推進論を繰り返すだけだった。
「コロナ禍が未来永劫ずっと続くかも、ウイルスが存続するかもわからないが、ワクチンや治療薬などができて対応できる時期も必ずやってくると思う。そうなったときには当然人々の移動が自由になってくるわけだから、より早く迅速かつ的確に大都市間の移動ができる新幹線は、国家50年、100年の計で見たにときは必要だと思う。進めていくべきだ」(吉村府知事)
暗闇を走るリニア新幹線で日本観光?
吉村氏は府知事と維新副代表を兼任しているが、維新代表の松井一郎・大阪市長も同じ考えだった。7月30日の会見で、こう答えたのだ。
――リニア中央新幹線について、川勝(平太)静岡県知事は「安倍総理がリモートワークを推進しているのだから、ウィズコロナ時代においてはリニアの必要性、採算性について再検証すべきではないか」と言っている。出張が少なくなれば、リニア中央新幹線をつくってもお客さんが減って、赤字垂れ流し路線になる恐れは十分あると思う。再検証すべきだと考えていないのか。
松井 リニアの問題については、もう少し長期間のスパンで物事を考えていく。リニアが27年に東京・名古屋(開業予定)でしょう。27年まで今のようにコロナと付き合っているような状況が続いていれば、そもそも世界経済は成り立っていないのではないか。だからリニアの話とウィズコロナの話は分けて考えるべきだと思っている。(略)東京・大阪間がリニアで1時間というのは非常に魅力的だし、将来においてリニアは必要と思っています。
――リニア推進論はコロナ前の話で、アフターコロナ時代には社会の様子や働き方の形態が変わっている可能性もある。コロナが収まった後のJR東海の新幹線需要を見極めたうえで、リニア中央新幹線が本当に成り立つのかどうかを検証すべきではないか。
松井 リニアを利用するのはビジネスマンばかりではない。アフターコロナというのであれば、大阪万博の25年にはインバウンド6,000万人、(20年には)4,000万という目標を掲げてきたわけだから、今度は観光旅行者の移動手段として非常に魅力的だと思っています。
暗闇を走るリニア新幹線に観光客がどれだけの魅力を感じるのかの議論はさておき、約9兆円もかけて東京・大阪間のリニアを完成させても、コロナ前の需要予測(想定乗客数)より大きく落ち込む可能性がある。その場合、赤字たれ流し路線となってJR東海が経営破綻に陥ることになりかねない。総事業費の3分の1、約3兆円が国の財政投融資であるため、焦げ付いて回収できないリスクもともなう。こうした巨額の損失(国民負担)が生じる恐れについて、維新代表の松井氏も副代表の吉村氏も目を向けようとしていないのだ。「リニア大阪延伸」を最優先にする「我田〝引鉄〟」に固執するその姿は、「大阪の田中角栄」と呼ぶのがぴったりの利益誘導志向といえるだろう。
(つづく)
【ジャーナリスト/横田 一】
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