ポストコロナ時代の新世界秩序と東アジアの安全保障(6)
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鹿児島大学 名誉教授 木村 朗 氏
「新型コロナウイルス危機」が起こってから、感染拡大防止のために都市封鎖や外出自粛が行われる一方で、経済活動が長期停滞するのを恐れて都市封鎖の解除や外出自粛の緩和が行われるなど、まさに混沌としている。しかし、コロナ危機の前後で私たちの社会と生活の前提が根本的に大きく変化したことや、急速なデジタル社会化が象徴しているようにこの変化が不可逆なものとなる可能性が高いことは明らかだ。
こうしたコロナ危機後の世界の有り様を踏まえて、ポストコロナ時代における新しい世界秩序を「東アジアの安全保障」という視点から考えてみたい。日本の安全保障を見直すべき時代
昨年11月の段階で、トランプ政権が「在日米軍駐留経費負担」(思いやり予算)の4.5倍増(約80億ドル)を日本政府に打診していたことが明らかになった。今年7月に、当時の大統領補佐官(国家安全保障問題担当)であったボルトン氏が来日した際に日本側に伝え、日本側は拒否したといわれている。日本は19年度の思いやり予算として、約1,974億円を計上している。単純計算で5倍にすると、9,800億円以上の巨額に上る。日本は在日米軍駐留経費の74.5%、約4分の3を負担しているが、同じ同盟国の韓国やドイツ、英国、イタリアなどと比べても負担割合は突出して大きいといえる(『沖縄タイムス』の社説、2019年11月18日付)。
現行の特別協定は21年3月末で期限を迎えるため、これから本格化する新協定の交渉では、これまでは各国に負担を求めていなかった米兵の給与や空母・潜水艦の寄港費用なども対象に含める可能性が取りざたされている。しかし、こうしたトランプ政権による法外な増額要求に対して、日本政府は毅然として拒否すべきである。むしろ「思いやり予算」廃止を提示して、在日米軍の縮小・撤退につなげるべきであろう。この問題に関連して、鳩山由紀夫元総理が、「今でさえ思いやり予算と言って、必要以上に駐留経費負担をしているのにとんでもない話だ。米軍は日本を守るために駐留しているのではない。今こそ常時駐留なき安保を真剣に考える時がきた」と米軍の撤退を含めた対策を講じるべきだという考えを提示している(『東スポウェブ』2019年3月11日付)。
河野太郎防衛相は6月15日、秋田県と山口県で進めてきた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」配備計画を「開発の費用・期間を考えれば、残念ながら配備は合理的ではない」という理由で停止すると記者団に表明した。「コストや時期を鑑みて、イージス・アショアの配備計画を停止する」というならば、真っ先に再検討すべきなのは辺野古新基地建設の強行を見直すことだろう。米軍普天間飛行場の移設にともなう名護市辺野古の新基地建設に対しては、自民党からも見直しを求める意見が出ている。今回の停止決定を口実にして、自民党内ではすでに「敵基地攻撃能力の保有」を求める声が挙がっているが、わざわざ論ずるまでもなく道理に合わない。
いま求められているのは安倍政権の安全保障政策の根本的見直し、すなわち「力による抑圧・排除の論理」ではなく「友愛による協力・包摂の論理」への転換である。朝鮮半島の非核化をめぐる和解の進展を見ればわかるように、安全保障の「地殻変動」はすでに始まっている。
朝鮮半島の分断体制の「終わり」は、東アジアにおける冷戦体制解体の「始まり」でもある。日本は東アジアにおける冷戦体制を続けることではなく、朝鮮半島における危機回避と平和的統一のための和解プロセスに積極的に関与することで、東アジアにおける冷戦体制の解体と新しい平和秩序構築に貢献すべきである。そうしたなかで、朝鮮半島との歴史認識の問題や日本人拉致問題での解決への道も見えてくるだろう。
(了)
<プロフィール>
木村 朗氏(きむら・あきら)
1954年生まれ。鹿児島大学名誉教授。日本平和学会理事、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表、国際アジア共同体学会理事長、東アジア共同体研究所(琉球・沖縄センター)特別研究員、前九州平和教育研究協議会会長、川内原発差し止め訴訟原告団副団長。著書として、『危機の時代の平和学』(法律文化社)、共編著として、『沖縄自立と東アジア共同体』(花伝社)、『沖縄謀叛』(かもがわ出版)、『「昭和・平成」戦後日本の謀略史』(詩想社)、『誰がこの国を動かしているのか』、『株式会社化する日本』(詩想社新書)など著書多数。関連キーワード
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