【ラスト50kmの攻防(3)】国は「決められないなら後回し」 佐賀県と溝
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共同配信記事の波紋
「長崎ルート 23年度着工断念 九州新幹線の佐賀区間 アセス入れず 国交省」。7月31日夕、共同通信社がそんな見出しの記事を、佐賀、長崎、西日本、毎日といった加盟新聞社に配信した。
工事に先立つ環境影響評価(アセスメント)の実施に佐賀県の同意が得られず、国交省は共同通信の取材に「目標通りの着工は困難になった」との認識を示した。記事はそう伝えていた。
この配信記事をべースに、佐賀新聞は「国交省 23年度着工見送りへ 県、複数アセス案拒否で」の記事を1日朝刊で扱った。長崎新聞も同じ日の朝刊に「23年度着工極めて困難 佐賀県改めてアセス拒否」の記事を掲載している。
どちらも共同通信の配信記事に独自取材の“色”を着けていた。佐賀新聞が「着工見送りへ」と断定的に報じたのに対し、長崎新聞は「着工極めて困難」と含みを残していた。ただ、両記事は共通して〈23年度着工〉に焦点を当てており、その表現が山口祥義知事の神経を“逆なで”したのは想像に難くない。
「新鳥栖―武雄温泉間は整備するなんて決まっていない。そこの言い方については、ぜひ皆さん気をつけていただきたい」。山口知事はかねて報道陣にそう注文していた。整備するかどうかも決まっていないのに着工はありえない、というのが山口知事の思いだったのではないか。
はたして3日、佐賀県庁のホームページに「西九州ルート(新鳥栖―武雄温泉間)の着工時期に関する報道について」というタイトルで、県の立場を改めて説明する文章がアップロードされた。
まず、新聞記事が国交省の目指す着工時期を前提に「23年度着工見送りへ」「23年度着工を断念」と見出しをつけている報道そのものに不満を表明。そのうえで、「新鳥栖―武雄温泉間は在来線をそのまま利用することで長崎県やJR九州などの関係者で合意し武雄温泉―長崎間が着工した。新鳥栖―武雄温泉間は、その整備はもとより、ルート、着工時期、開業時期も、決まったことや関係者で合意したものは一切ない」としている。
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まちづくり一方、国交省の計画では、未着工の新鳥栖―武雄温泉間を含め、長崎新幹線の全線開業の目標を35年度としている。そのためには逆算すると新鳥栖―武雄温泉間は23年度着工が前提になるという。計画は標準軌(フル規格)だ。
4日午前の閣議後会見。赤羽一嘉国交相(衆院兵庫2区)は「(佐賀県に)提案の趣旨を理解いただけないことは大変残念」としながらも、今後も佐賀県と“幅広い協議”を続行するとした。話し合いの余地はある、という投げかけだろう。
「できる線区からやらざるをえない」山本委員長
その2日後の6日。佐賀新聞1面トップをインタビュー記事が飾った。共同通信の配信記事ではない、独自取材の記事だった。
「長崎ルート 『財源後回し』 検討委議論の凍結示唆」。インタビューに応じたのは、与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム検討委員会の山本幸三委員長(衆院福岡10区)。整備新幹線建設で国交省と財務省の間に入り、建設推進の立場ながら与党の実務責任者として双方の利害も調整する。
インタビューで山本氏は、「整備方式を決められないなら後回しだ。(長崎ルートは)放っておいて、できる線区からやっていくしかない。長崎ルートを北陸新幹線とセットの財源論議から切り離すという話にならざるを得ない」と話したと佐賀新聞は伝えている。
整備新幹線全体の財源論議から長崎ルートだけが切り離されたらどうなるか――。記事に目を通した「佐賀県フル規格促進議員の会」会長の平原嘉徳佐賀市議は、「かなり厳しい意見だ」と言葉少なだった。
ただ一方で山本委員長は、自身のツイッター上に佐賀新聞1面の画像を投稿、「昨日(5日)受けたインタビューです。1面とは驚きです。(掲載許可済)」と短くツイートしている。
山本委員長は大蔵省(財務省)OBで、自民党の金融調査会長や税制調査会副会長を務める“大蔵族”。その発言は単なるブラフ(威嚇)なのか。それとも、綻びかける整備新幹線の財源スキーム立て直しに非協力的な佐賀県への苛立ちなのか。
【南里 秀之】
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