【ラスト50kmの攻防(4)】「武雄温泉-長崎」開業は22年度 焦り隠せぬ検討委
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与党整備新幹線建設促進プロジェクトチーム(PТ)検討委員会の山本幸三委員長(衆院福岡10区)が、佐賀県の山口祥義知事の姿勢に苛立ちを募らせるのは、ワケがある。
山本氏は、大蔵省(財務省)OBで自民党の金融調査会長。当然、“古巣”の動きには敏感だ。昨年5月、財務省は政府予算の肥大化を防ぐ仕組みを検討するため、財政制度審議会(財務相の諮問機関)に財政制度分科会歳出改革部会を置いた。
分科会の臨時委員には、JR東海の葛西敬之・取締役名誉会長が入った。葛西氏は、国鉄分割民営化の旗手の1人だった。採算の合わない鉄道事業はやるなと主張していた。こうした人選からも、建設費が増加する整備新幹線の収支見通しを精査し、不採算路線の建設に歯止めをかけたい財政当局の姿勢が透けて見えた。
整備5線はすでに2線が開業。工事中は北海道新幹線・新函館北斗-札幌、北陸新幹線・金沢-敦賀、九州新幹線西九州ルート・武雄温泉-長崎の3線3区間。分科会には18年度で費用便益比率(B/C)を再評価した数値が報告された。国交省はB/Cが1.0を下回ると不採算事業と判定、事業中止を検討する。
再評価によると、北陸・金沢-敦賀は2017年度の評価1.01が18年度は0.9に、長崎・武雄温泉-長崎は12年度の1.1が18年度は0.51に低下した。北海道・新函館北斗-札幌間は2017年度の評価1.1をそのまま使っていた。
北陸も長崎も、工事用道路の新設、現地調査費の増加、さらに建設労働者不足による賃金アップが追い打ちをかけたことで総事業費を押し上げた。とくに長崎は、武雄温泉-長崎の標準軌新線(フル規格新線)と新鳥栖-武雄温泉間の狭軌(在来線)の双方を走行するはずだった「新在直通電車」(フリーゲージトレイン、FGТ)が使えなくなったのが大きく影響した。
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佐賀県と溝FGТは1998年、鉄道技術総合研究所(国)が3両編成の1次試験車両を初めて製作。以来、18年8月の事実上断念までの間に2次、3次試験車両を開発し、JR西日本とJR九州の在来線や新幹線で走行試験を重ねた。
九州新幹線の熊本県区間では、新幹線―軌間変換―在来線の走行を反復する「3モード耐久走行試験」まで進んだ。しかし台車の不安定さや車軸の摩耗抑制などを克服できなかった。
FGТの挫折によって、再評価は武雄温泉駅ホームで在来特急と新幹線の対面乗り換えの継続を前提にしていた。一方で国交省の指針では、北陸も長崎も、残事業のB/Cが1を超えていた。事業を続行すれば、長崎新幹線の採算は合うというわけだ。
整備新幹線は、1つの区間の開業のメドが立ち、新しい区間に着工する際は、5つの条件を確認することが政府・与党の申し合わせ。すなわち、(1)安定的な財源見通しの確保、(2)収支採算性、(3)投資効果、(4)JRの同意、(5)並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意。これらは着工5条件と呼ばれている。
北陸も長崎も、5条件を満たさない限り前に進めない。山本委員長の苛立ちは、次のステップを踏む岐路になる武雄温泉-長崎間と金沢-敦賀間の開業が22年度に迫っていることが背景にある。
「新しい区間の工事費を確保するための財源スキーム(枠)を、2線セットにして来年3月末までにまとめようと考えています。北陸は『切れ目ない着工』を強く望んでいます。だから長崎も、在来線(狭軌)活用、標準軌新線建設のどちらに転んでもいいような環境影響評価(環境アセスメント)を佐賀県に提案しているのですが……」。国交省幹線鉄道課の担当職員は、言葉を選びながら、そう話す。
ただ与党検討委は昨年8月、新鳥栖-武雄間は標準軌新線の建設が「妥当」として国交省に佐賀県との協議を求めた。そういう“柔軟”な国交省の姿勢も、山本委員長を苛立たせる一因かもしれない。
【南里 秀之】
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