世界を襲う自然災害:最大の危機は中国の三峡ダムの決壊(3)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
世界を飲み込むかのような新型コロナウイルス感染の嵐は一向に収まる気配が見えない。その発生源をめぐってはアメリカと中国が「新冷戦」と揶揄されるほどに対立し、責任のなすりつけ合いに終始している。そして、トランプ政権は「ヒューストンにある中国総領事館は“スパイの巣窟”である。アメリカで進む感染症治療薬の開発に関するデータを盗もうとしてきた」といった理由で、閉鎖を命じるという強硬手段に打って出た。
ダム決壊事故多発の危険性
実は、中国には10万基近いダムが建設されている。世界でもっとも多くのダムを保有しているわけで、「世界最大のダム王国」と言っても過言ではない。とはいえ、三峡ダムのような巨大なものは例外で、97%のダムは貯水容量が1,000万m3以下の小型ダムである。揚子江に限らず、黄河や淮河などの支流にも数多くのダムが建造されてきた。
しかも、これらの小型ダムの大半は1950年代から70年代にかけて、人口増加にともなう農業生産を支える水利目的で建造されたもの。残念ながら、当時のダム建造技術は低レベルであり、財政的な制約もあり、大部分のダムは土や石を積み上げただけの小規模なもの。「寿命は50年」と言われており、すでにほとんどすべてが耐用年数をはるかに超えている。要は、5000基ほどのダムはいつ決壊してもおかしくない状況にあるわけだ。
毛沢東主席による「自力更生」や「大躍進」の掛け声で建造されたものだが、やはりすでに3500基のダムはこれまでの大雨で決壊してしまった。旧ソ連の支援で1952年に完成した黄河上流のダムは1975年の洪水で決壊し、「人類史上最も悲惨なダム決壊事故」として記録されている。数十万人の死者が出たが、当時はその事故は隠蔽され、その事実が明らかになったのは20年以上の月日が経ってからのことだった。
こうした事態を受け、当然のことながら、中央政府はダム補修工事を進めているが、地方自治体レベルでは資金や人材不足もあり、危険除去や補強作業は後回しにされてきた。実際、1998年には4,000人以上が命を落とし、1,400万人が住む家を失うという大洪水が発生した。その原因は「森林の伐採」と「土壌の浸食」と言われたものだ。そのため、急遽、中国政府は揚子江上流での森林伐採を禁止し、再植林計画を発動することになった。
他方、中国とは国境を接するベトナムでも巨大台風や地球温暖化が原因と目される海面上昇による経済的損害が増え続け、すでにGDPの1.5%が奪われている。これまで、南シナ海の権益をめぐり、対立を繰り返してきた中国とベトナムであるが、2020年7月以降、自然災害への対応や危機管理面での共同事業を推進することで新たな合意を形成する動きが出てきた。災害への危機感が対立する両国を歩み寄らせるきっかけをもたらした感がある。まさに「禍を転じて福と為す」となるものかどうか、両国の今後の動きが注目される。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。関連キーワード
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