2024年12月22日( 日 )

【株主総会血風録4】東芝~「物いう株主」エフィッシモが改正外為法の審査に真っ向勝負で挑む!(1)

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 今年の株主総会で、もっとも関心を集めたのは(株)東芝である。投資ファンド2社が、それぞれ推薦人物の取締役選任を求める株主提案を提出し、会社側と対立した。株主提案はいずれも否決され、会社提案はすべて可決された。もっとも注目されたことは「物いう株主」が、改正外為法の審査において、経済産業省に真っ向勝負を挑んだことだった。

車谷暢昭社長の選任案の賛成は57.96%

 東芝は8月4日、関東財務局に臨時報告書を提出し、7月31日に開催した定時株主総会での議決権の結果を公表した。主な候補者の賛成、反対の比率および結果は次の通りだ。

【第2号議案】会社提案(取締役12名選任の件)
・綱川智(会長)
 賛成率:89.95% 反対率:  8.07% 結果:可決
・車谷暢昭(社長)
 賛成率:57.96% 反対率:18.96% 結果:可決
・藤森義明(社外取締役、元LIXILグループCEO)
 賛成率:78.09% 反対率:19.92% 結果:可決
・永山治(社外取締役、中外製薬名誉会長)
 賛成率:97.70% 反対率:  0.33% 結果:可決

【第3号議案】株主(3D ※1)提案(取締役2名選任の件)
・Allen Chu(投資家)
 賛成率:31.14% 反対率:66.37% 結果:否決
・清水雄也(ひびき・パース・アドバイザーズ最高投資責任者)
 賛成率:31.14% 反対率:66.37% 結果:否決
(※1 3D:3D・オポチュニティ・マスター・ファンドの略)

【第4号議案】株主(エフィッシモ ※2)提案(取締役3名選任の件)
・竹内朗(弁護士)
 賛成率:41.95% 反対率:54.76% 結果:否決
・杉山忠昭(元花王法務担当執行役員)
 賛成率:37.68% 反対率:59.02% 結果:否決
・今井陽一郎(エフィッシモディレクター)
 賛成率:43.43% 反対率:54.77% 結果:否決
(※2 エフィッシモ:エフィッシモ・キャピタル・マネジメントの略)

 車谷氏への賛成率は57.96%、反対率は18.96%で、23.08%が棄権した。車谷氏はかろうじて首がつながったが、事実上は不信任ともいえる、「薄氷」の信任となった。
 会社提案で賛成比率がもっとも多かったのは、取締役会議長に就任した中外製薬の永山治名誉会長の97.70%だった。

 民間シンクタンクの調査では、東京証券取引所に上場している主要500社のうち、2020年1~6月の株主総会で取締役選任議案への賛成率が低い経営トップは、役員らの金品受領問題が発覚した関西電力の森本孝社長の59.6%だった。車谷氏への賛成率はこの結果を下回っており、取締役選任として最低となった。

メインバンクから送り込まれた車谷氏と「物いう株主」の攻防

 車谷暢昭氏は18年4月、東芝の会長兼経営最高責任者(CEO)に就いた。車谷氏はメインバンクの三井住友銀行副頭取、三井住友フィナンシャルグループ副社長の経験を買われて、東芝の再建に送り込まれた。東芝では、車谷氏は「物いう株主」との攻防を繰り返してきた。

 東芝は17年3月期に、米国の原発子会社ウェスチングハウスと同グループの再生手続きによる損失など1兆2,428億円を計上し、5,529億円の債務超過に陥った。債務超過を解消するために、17年12月に6,000億円もの第三者割当増資を行った。増資に応じた60のファンドには、うるさ型の「物いう株主」が顔をそろえた。

 東芝は、稼ぎ頭だった半導体メモリ事業の売却資金が入ったため、18年6月末時点の現預金や有価証券などを含む手元資金は2兆15億円となり、1年間で1兆4,857億円増加した。

 東芝の多額のキャッシュに舌なめずりしたのが、増資を引き受けて東芝の株主となった「物いう株主」らだ。「我らが増資に応じたから、東芝は倒産を免れた」として、彼らは東芝にその謝礼として、1兆1,000億円の自己株式の買い戻しを求めた。

 「物いう株主」は株主総会での投票を武器に、「要求を呑まなければ、株主総会において取締役就任を認めない」と揺さぶりをかけ、勝負に出た。車谷会長の賛成率は18年の株主総会で63.04%だったため、いうことを聞かなければ、臨時株主総会を開いて首をすげ替えることが可能だと見せつけると、車谷会長は全面降伏した。

 「物いう株主」は、東芝メモリ(株)の売却により増加した手元資金1兆4,857億円のうち、4分の3近くをファンド側に還元せよと迫った。とんだ強欲ぶりだ。1兆1,000億円も吸い上げられたら、何のために東芝メモリを売却したのかわからない。さすがに、東芝も頭にきたようで、構造改革費用などを考慮してファンド側に7,000億円を還元すると決め、理解を求めた。「増加した手元資金のうち半分近くをファンド側に渡すから、それで手を打ちましょう」というわけだ。

 東芝は、18年11月9日から1年間で2億6,000万株、7,000億円を上限に自社株購入を実施した。一度、債務超過に転落した企業が、ここまで巨額の自社株買いを行った例はほかにない。東芝が自社株買いに踏み切ったのは、「物いう株主」の圧力に屈したためである。

 東芝は17年12月の巨額増資を行った結果、海外投資家の株式保有比率は69.82%(19年3月末時点)を占めている。

 19年の株主総会では、車谷会長の賛成率は99.43%と18年の63.04%から36.39ポイントも上昇した。他の11人の賛成率も、すべて99%超だ。「物いう株主」の言いなりになったため、そのご褒美に100%近い賛成を得たのだ。

(つづく)

【森村 和男】

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