【ラスト50kmの攻防(7)】佐賀県議会・新幹線対策特別委始まる 国交省鉄道局次長などを参考人招致
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■動き出した佐賀県議会
停滞した九州新幹線「長崎ルート」新鳥栖―武雄温泉間の整備方式協議を打開するため、佐賀県議会が動き始めた。
9月2日。新幹線問題対策特別委員会に、国交省の寺田吉道鉄道局次長と鉄道・運輸機構の湯山和利理事を参考人招致し、この区間の整備の在り方をテーマに質疑する。
佐賀県議会では、この区間について最大会派の自民党県議団が「フリーゲージトレイン(新在直通電車、FGТ)開発など在来線の利用を模索しつつ、フル規格で整備した場合を想定して議論を進める」と7月20日に申し合わせている。
自民党は県議会の定数38(欠員1)のうち25議席を占め、国交省との協議に応じない山口祥義知事もその意向を軽視できない。中倉政義・議員団長は申し合わせの趣旨をこう説明する。
「申し合わせは、フル規格を想定した議論をした方が、財源確保や建設費の地域負担、並行在来線など問題点が最も浮き彫りになると考えたから。決してフル規格を念頭にした話ではない。第一、新鳥栖―武雄温泉間はルートも決まっていない」
■「国が積極的に動くべき」大串氏
建設費の地域負担や並行在来線の扱いは最重要課題といえるが、立憲民主党幹事長代理の大串博志衆院議員(佐賀2区)の考え方はシンプルだ。
大串氏と山口知事は東京大学以来の友人として知られる。「新幹線の話を山口知事と話したことはない」と断ったうえで大串氏は指摘する。
「建設費は全国一律に新幹線が走る距離に応じて、その県の負担が決められている。新鳥栖―長崎間を全線フル規格で建設した場合、メリットが大きい長崎県は県内を走る距離が佐賀県よりかなり短いため、負担金は少なくて済む。国交省が『フル規格新幹線の建設は国策』と言うのなら、佐賀県と長崎県の議論にゲタを預けず、地域負担金をその県の受益の範囲に改めるなど、積極的に動くべき」
並行在来線については、「身近な自分たちの足がどうなるのかを沿線住民は心配しており、地域負担の話より深刻。フル規格うんぬんより、JR九州と並行在来線を先行協議した方が話を前に進めやすい」
政権党でないためか、大串氏は地域負担の変更や並行在来線の先行協議に切り込む。
■「仲介役」は機能するか
しかし、自民党の佐賀県議団としては、全国一律で進めてきた新幹線建設の整備スキームを逸脱する話を、軽々には持ち出せない。
「9月2日の質疑では、FGТ(新在直通電車)が新鳥栖―武雄温泉駅間に本当に使えないのか。まず、そこを確認する。在来線同士をつなぐFGТの開発は続けていると聞く。新幹線と在来線双方を走行するのが技術的にどう難しいのか、鉄道・運輸機構にしっかり説明してもらう」。新幹線問題対策特別委の藤木卓一郎委員長(自民)はそう話す。
建設費を確保する次期財源スキームも、国交省は北陸新幹線敦賀―新大阪間と抱き合わせの協議を呼び掛けている。藤木氏はその点も不満だ。
「北陸は最初からフル規格を望んでいたが、長崎の佐賀県区間は違う。FGТだから着工に同意した。そのFGТがダメになったから、即フル規格とはならない。ホテルを予約していたのに、ホテル側のミスで部屋が取れなくなった。そんなとき、ホテル側は部屋のグレードを上げて値段を安くするとか、普通は何か考えてくれる」
「国と条件闘争はしない」と話す山口知事。県議会が知事に追随すれば、武雄温泉―長崎間の開業後、武雄温泉駅ホームで新幹線と在来特急を乗り継ぐリレー方式が固定化する可能性が高まる。「そうなれば、JR九州は経営が行き詰まり、不採算の在来線を切り捨てる」と藤木氏。「そうならないよう、我々の判断材料を整理する」と明かす。
山口知事ら執行部に代わり、自民党県議団や県議会が政府・与党新幹線検討委との交渉窓口になって事態を打開する道を探るわけだ。
長崎ルート全線を標準軌新線で整備した場合、鹿児島ルートと共用する博多―新鳥栖間を除き、国交省の試算では19年4月現在、新鳥栖―長崎間の建設費は1兆2,397億円。今の整備スキームなら地方負担は3分の1の4,132億円。
新鳥栖―長崎間の佐賀県区間と長崎県区間の距離比は概ね1.3対1。距離が長い分、並行在来線の分離でも佐賀県に〈痛み〉が生じやすい。
“不均衡な格差”をどう埋めるか。与党検討委・国交省と佐賀県の溝が深まるなか、「仲介役」の真骨頂が試される。
【南里 秀之】
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