元総合商社駐在員・中川十郎氏の履歴書（19）サンパウロ本店の開発担当取締役に任命

日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏

　世界銀行入札案件の落札の余勢を駆って、パラグアイでここ2年間、進めてきたケネディ・ラウンドの無償資金協力による農業機械入札でも、農業用トラクター、耕運機、ポンプ、噴霧器などで、矢次ぎ早に落札が決定した。さらにチリ向けに進めていた乗用車輸入の商談でも、リオデジャネイロ支店で担いだD社の小型乗用車4万台、当時の金額で500億円規模の独占的大量成約に成功した。

　I総支配人は過去のいきさつを水に流し、サンパウロ本店開発担当取締役としての転勤を要請された。かくして筆者は1977年7月12日に、サンパウロ本店に転勤した。

　I総支配人は大学時代には陸上部に所属し、国体に出場したほどの腕前をもつスポーツマンで、さっぱりした性格だった。一方、筆者も南国・鹿児島の出身で、前向きで物事にこだわらない性格であった。

　総支配人との帰国騒動はあったが、後から振り返ると「雨降って地固まる」という出来事だった。その後はIブラジル総支配人とサンパウロ本店でも意気投合し、楽しい駐在員生活を送れたことは幸運であった。日本に帰国した後も、同じニチメン東京本社勤務となり、元ブラジル駐在員の会合である「ブラジル会」でも親しくお付き合いさせていただいた。I総支配人はジョギングが趣味で毎朝走っておられたが、ある冬の寒い朝ジョッギング中に倒れ、そのまま息を引き取られた。哀悼の誠をささげる次第だ。

（つづく）

＜プロフィール＞
中川　十郎（なかがわ・ じゅうろう）
　鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン（現：双日）入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師（国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論）、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師（競争と情報、テクノロジーインテリジェンス）