【凡学一生のやさしい法律学】自民党総裁選余話~ユーミンのつぶやきをめぐる舌禍事件(後)
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文脈を無視した悪質な論評は、最近では「リベラルが寛容性をもたない」(中川淳一郎氏)と人格攻撃までに発展している。「寛容性をもたない」ということは白井氏が本気でユーミンの死を希望していたことを意味するが、いかに言論の自由があるといえど、かえって度が過ぎた言論ではないかと感じざるを得ない。
白井氏が我を忘れて暴言を吐いた理由は、なぜ究明されないのだろうか。白井氏は「おりこうさん」のため、正当な理由を開陳することなく全面謝罪で事件の幕引きを図った。
筆者は白井氏の激情には相当の理由があるように感じるため、白井に代わって激情の本当の理由を推察すると、日本の選挙の実態が、選挙をただの集票競争に見下げてきた民主主義の危機が明白に存在することがわかった。
ます、安倍総理大臣には奇妙な交友癖がある。外出自粛要請の最中に有名歌手とコラボしたかのような動画を配信して、世間のひんしゅくをかった。つまり、芸能人が大好きなのである。このことは、意地悪な評論家に言わせると、安倍総理大臣がその芸能人のファンまで支援者に取り込もうとする気持ちの表れということになるだろう。
一方で、政治情勢をよく知らない芸能人にとって、一国の宰相から好意を示されて悪い気がするはずもない。とくに知名度の高い芸能人やアスリートは国会議員選挙では集票マシンの役割を担い、比例代表候補の大量当選を可能とする。常に「狙われている」のは「日本の常識」なのである。自民党のなかには、多くの芸能界出身議員がいることは事実だ。
中川氏は、有名芸人の松本人志氏が安倍総理大臣と会食した事実について、さんざん、「出馬か」と騒がれた事実を無視して、「会食しただけ」とまるで菅義偉官房長官のコメントのような姿勢である。安倍総理大臣が常に選挙のことを考え、候補者の選定を念頭に行動したとしても、自民党総裁としてはまったく当然のことである。
白井氏はユーミンと安倍総理大臣の交友に対してもそのような視点で見ていたため、その人物がシナリオ通りに引退劇の感想を述べたことには、堪忍袋の緒が切れたのだろう。
もちろん、出馬の意図の有無に関わらず、ユーミンが著名な芸能人として自民党最高指導者と交際するなら、それくらいの「心構え」をもたなければならない。それは熱心なファンの一部の人への裏切りであり、失望となり得るからである。白井氏は一方でユーミンのファンであったと言っているが、それなら「失望した。ファンを止める」という程度のコメントになり、「死ね」には至らない。
以上のように、ユーミン舌禍事件の背景には自民党が知名度の高い芸能人を集票マシンとして利用してきた歴史があり、民主主義の実質的な否定の歴史がある。今回もユーミンの多数のファンが安倍総理大臣の演出された引退劇にまんまと騙される効果があったことは否定できない。それに対して白井氏は、精一杯の「暴言」を吐き、異議申立てしたのだった。
ユーミンが今後とも立候補しないことを祈るばかりである。
(了)
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