【ラスト50kmの攻防(10)】新旧知事の”判断” 山口知事は地域の〈光と影〉を懸念
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さながら「新幹線議会」―佐賀県議会
佐賀県議会の9月定例会は、開会前の2日、新幹線問題等特別委員会が開かれて国交省の寺田吉道鉄道局次長らを参考人招致して九州新幹線長崎ルート(博多―長崎間)の整備方式を集中審議したこともあって、さながら「新幹線議会」の様相になった。
最大会派の自民党から無所属系1人会派まで、一般質問に立った議員15人のうち半数近い7人がこの問題を取り上げて山口祥義知事らの考えを聴いた。山口知事は、国交省が同ルート新鳥栖―武雄温泉間の着工に必要な環境影響評価(環境アセスメント)を実施することへの同意を改めて拒んだうえで、その理由を初めて県議会で明らかにした。
質問者は藤木卓一郎氏(自民)。新幹線問題等特別委員会の委員長で国交省の上原淳鉄道局長名の公文書を11日に受け取っていた。
国交省は、事態を打開するため佐賀県に複数の整備方式に対応する環境アセスを6月16日に提案。集中審議でも寺田局次長は、「佐賀県がアセスに同意したからといって、フル規格を容認したとはみなさない」と重ねて答弁した。
特別委はそれでも不安視し、答弁内容を公文書にしてほしいと要求。それは、山口知事を協議のテーブルに着かせるため、議会側ができる最大限に近い努力でもあった。
しかし山口知事は一般質問初日の14日。トップバッターの土井敏行氏(自民)らの質問に答える形でアセス同意を重ねて拒否。「(新鳥栖―武雄温泉間に導入予定だった)フリーゲージトレイン(新在直通電車、FGT)の導入断念は国の責任。断念したからフル規格、では筋が通らない」と繰り返した。
藤木氏は「FGTを導入断念したことに、国も与党新幹線検討委員会の山本幸三委員長も『責任を取る』と明言している。不安払拭のための公文書も届いた。それを一顧だにせず、木で鼻をくくるように〈アセス同意はフル規格受け入れと同義〉と躊躇なく答える。これでは鉄道局長を嘘つき呼ばわりして喧嘩を仕掛けているようなもの」と追及した。
山口知事が初めて明かした胸の内
答弁に立った山口知事は県議会本会議場では初めて、アセス同意を拒み続けるワケを明かした。それは、自民党衆院議員に転出した古川康・前知事への痛烈な批判だった。
古川氏と山口知事は、ラ・サール高(鹿児島市)から東大法学部を経て旧自治省(現総務省)入りした経歴が同じ、先輩と後輩にあたる。長崎県総務部長を最後に退官し、佐賀県知事選挙に出馬、激戦を勝ち抜いて初当選した共通項がある。
2004年12月9日。当時の古川知事は佐賀藩時代の書物『葉隠』の「今がその時、そのときがいま」という一節を引いて、「長崎ルートの整備に向けた財源確保のため、並行在来線のJR九州からの経営分離は基本的にやむを得ない」と断を下した。
当時は整備5線のうち全線開業が見通せたのは東北・八戸―新青森間と九州鹿児島ルート博多―新八代間くらい。財政当局の“壁”が厚かった。長崎ルートは武雄温泉―諫早間の着工が浮上。佐賀県は並行在来線の長崎線・肥前山口―諫早間のJR九州からの経営分離に沿線自治体、少なくとも佐賀県の同意が求められた。
沿線自治体は江北、白石、福富、有明、鹿島、塩田、太良の7市町。厳しい交渉の末、特急停車駅所在地の江北町と鹿島市、長崎県境の太良町の3市町が不同意の姿勢を崩さなかった。その後の合併で白石、福富、有明3町は白石町、塩田町は嬉野町と嬉野市になった。
沿線自治体の判断が分かれたままの状態で、古川知事が経営分離に同意した。この経緯を持ち出し、山口知事は「その拙速な判断が、(長崎線肥前山口―諫早間の)上下分離方式を生み、地域に〈光と影〉の分断が生じた。この様なことは行われるべきではない。アセスを先行させて同じ轍を踏むのか。見切り発車すべきではない」と力を込めた。
対する古川氏。当時の胸の内を言葉少なに話す。「もともと県庁は、『新幹線は佐賀県にメリットがありません』と反対する職員が多かった。『無理をされない方がいいですよ』と忠告に来た職員もいた。しかし私は、ここで経営分離に同意することが、きっと将来の佐賀県のため、国のためになると決断した」。
16年の時を経て、似たような状況が再び佐賀県を覆う。国交省が、新鳥栖―武雄温泉間と財源確保策の抱き合わせ協議を目指す北陸新幹線・敦賀―新大阪間は、滋賀県のJR湖西線から離れた京都府内のルートを選択。並行在来線が“消えた”という。
新鳥栖―武雄温泉間にそんな“妙手”はない。山口知事の言う地域の〈光と影〉は、並行在来線の具体的な線区が判明しない限り、推測の域を出ない。それまで国交省と「幅広い協議」を重ねて線区をあぶり出すか。それとも先行して線区を認定してもらい、JR九州との協議に入るか。どちらにせよ、佐賀県の判断のみで決められる話ではない。
【南里 秀之】
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