国の「太陽光・風力発電推進」どこまで本音?再エネ政策に漂う不透明感(中)
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認定NPO法人環境エネルギー政策研究所 所長
飯田 哲也 氏洋上風力バブルでも、相変わらず向かい風が吹く日本の再生可能エネルギー。燃料費ゼロでも多額の初期投資と送電系統の空き容量などの問題から、太陽光・風力発電は政策なしには進まない。自然エネルギー政策専門家であり、認定NPO法人環境エネルギー政策研究所・所長・飯田哲也氏に聞いた。
再エネと新電力を封じ込める容量市場
飯田 今年7月から、発電所が発電できる能力を取引する「容量市場」の第1回入札が行われました。天候や時刻で発電量が変わる太陽光や風力発電は、これまで発電した電気を1kWh単位で取引されていた卸電力取引所(JPEX)とは別に、1万kWなどの「発電能力」の取引が始まったのです。
この容量市場の始まりは、米国で1990年代後半に電力市場が自由化され、発電部門と送電線管理部門を機能分離する発送電分離が進んだことでした。1社のなかで発電と送電を行うと、短期間で利益を上げる発電所と、安定供給できる予備電源としての発電所の両方を確保できます。しかし、発送電分離により、卸電力取引のみでは停電を防ぐ予備の発電所の収支が合わなくなり廃止される恐れがあったため、予備の発電所を残すための費用を市場が負担する制度として、容量市場が開始されました。
欧州では、再生可能エネルギーは初期費用の多くが固定価格買取制度などの政策で支援されるため、燃料費の不要な太陽光発電や風力発電は限界費用(追加で1単位を発電するために必要な費用)の安い電力になります。そのため、卸電力取引所では、限界費用の安い太陽光発電により、天然ガスや火力発電などの限界費用の高い電力が押し出されます。
従来の独占市場では電力安定供給のために、これらの電源が一定の予備電源が維持されていましたが、自由化されたうえに限界費用の安い太陽光と風力が急増したために確保が難しくなってきたという事情があります。欧州では電力市場自由化に加えて、太陽光などの再生可能エネルギーの急増を受けて、今後も安定供給に必要な最小限の予備電源を残すための政策手段として、容量メカニズム(容量市場はその一類型)の導入が必要だという議論が2010年ごろに始まりました。
日本では、容量市場を開始した理由について、発電所の建設に多くの費用と期間(リードタイム)がかかり、建設時に将来の資金回収の見通しを立てることが必要なため、と説明されています。そのため、容量市場は4年後の発電容量を入札し、取引します。
しかし、欧州での容量メカニズムの議論では、気候変動対策と統合させることに加え、そのためにも季節や天気、時間帯によって発電量が変わる太陽光や風力発電をいっそう普及させる必要があり、その整合性が問われました。そのためEUの容量市場には下記(1)(2)の規制があります。
(1)一定以上のCO2を排出する電源は不可(例:石炭火力発電など)
(2)出力抑制ができず、系統全体の調整力がない電源は不可(例:原子力発電など)ところが日本では、これらがすっぽりと抜けており、むしろ既存の大手電力会社の原発や石炭への「補助金」として費用が支払われる(※)ため、実質的には再生可能エネルギー抑制になっています。
9月14日に、初の容量市場の結果が公表されましたが、上限価格とほぼ同じ1万4,137円となりました。これは、電力小売業が容量市場で発電所に支払う1kWhあたり2円となり、極めて高値となりました。この負担金は、電力小売業の約85%を占める大手電力10社(旧・一般電気事業者)にとっては小売部門と発電所がグループ内にあるため、「右手から左手への取引」なので問題にはなりませんが、発電所をもたない多くの新電力にとっては利益が吹っ飛ぶほどの大きな負担になります。
※:玄海原発(118万kW)は容量市場で約166億円/年を確保できる。 ^
(つづく)
【石井 ゆかり】
<プロフィール>
飯田 哲也(いいだ・てつなり)
1959年山口県生まれ。京都大学工学部原子核工学科、東京大学大学院先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。認定NPO法人環境エネルギー政策研究所所長。日本のFITの起草者で、自然エネルギー政策では、国内外の第一人者かつ日本を代表する社会イノベータ。国内外に豊富なネットワークをもち、REN21運営委員、自然エネルギー100%プラットフォーム理事などを務め、2016年には世界風力エネルギー名誉賞を受賞。日本でも国・自治体の委員を歴任。著書として、『北欧のエネルギーデモクラシー』(新評論社)、『エネルギー政策のイノベーション』(学芸出版社)、『1億3,000万人の自然エネルギー』(講談社)、『エネルギー進化論』(ちくま新書)など多数。関連記事
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