国の「太陽光・風力発電推進」どこまで本音?再エネ政策に漂う不透明感(後)
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認定NPO法人環境エネルギー政策研究所 所長
飯田 哲也 氏洋上風力バブルでも、相変わらず向かい風が吹く日本の再生可能エネルギー。燃料費ゼロでも多額の初期投資と送電系統の空き容量などの問題から、太陽光・風力発電は政策なしには進まない。自然エネルギー政策専門家であり、認定NPO法人環境エネルギー政策研究所・所長・飯田哲也氏に聞いた。
高効率・低価格化する蓄電池
――再生可能エネルギーへの取り組みは進んでいますか。
飯田 天候や時刻で発電量が変わる太陽光や風力発電は、電力を安定供給できるように溜めておける蓄電池が不可欠ですが、今年5月にインドで公募された「24時間365日運転可能な蓄電池付き太陽光発電400MW」に対して、リニューパワー社が約5.6円/kWhという低価格で落札しました。ちなみに同社には、東京電力と中部電力の(株)JERAも出資しています。
「24時間365日運転可能」ということは、いわゆるベースロード電源ですが、単なるベースロードではなく、同時に蓄電池は天然ガスや揚水発電に比べても発電量の変化に圧倒的に早く対応できるために周波数変動も即座に吸収でき、またこれだけの蓄電池規模になるともっと大きな周波数変動による停電も防ぐことができる、ピーク時の対応も緊急時の対応もできる、万能のベースロード電源となります。こうした電源こそ「容量市場」で支えることがふさわしいのです。
その他、太陽光、風力発電が全電力のうち年平均で約50%を占める南オーストラリア州では、テスラ社が巨大蓄電池「ザ・ビッグバッテリー」(規模:100MW・129MWh)を建設しました。その理由は、16年9月に隣州から送電していた連系送電線が暴風雨で倒壊して、停電が起きたためです。総投資費用は約75億円ですが、従来の天然ガスなどより圧倒的にすばやく周波数変動に対応できるため1年あたり約30億円の周波数変動のコスト削減、実質的に2年強で投資費用を回収できる費用対効果だったと報告されています。そのため、今このザ・ビッグバッテリーは容量を1.5倍に増強しているほか、オーストラリア中で巨大蓄電池の建設が進みました。
こうしたことの背景には、この10年間で蓄電池コストが、太陽光発電と同様の技術学習効果によって、約80%も低下した事実があります。つまり、かつては高価すぎて電力用には使えなかった蓄電池も、電力用でも使えるほどに安くなり、今後もますます安くなっていくことが確実視されているのです。
FIP制度、再エネ政策で増す不透明感
飯田 日本でも「遅れてきた洋上風力発電ブーム」ですが、EUでは洋上風力発電所のハブとなる人工島を北海につくり、人工島から海底ケーブルで欧州6カ国に送電する、サイエンス・フィクションのような壮大なプロジェクトが進んでいます。オランダ、デンマーク、ドイツ、英国などを結ぶ計画で、建設計画に合意できれば、35年完成予定といわれています。風力発電は、主に大型化によりコストダウンが進み、10年間でコストが約70%低下し、洋上風力の開発と投資が進んでいます。
一方で、洋上風力発電の建設は、漁業組合との兼ね合いや自然保護、景観保護などの課題もあるため、地域の頭越しに進めてしまうとプロジェクトに影響が出る恐れもあります。FIT制度に代わり導入されるFIP制度は売電時の市場価格にプレミアム(補助額)を上乗せするものですが、準備が遅れているためスタートは22年4月以降になるのではないでしょうか。しかしFIP制度をスタートしても、卸電力取引市場の入札で太陽光・風力発電が優先的に入札されなければその恩恵を受けることはできません。日本では、電源の8割を旧一般電気事業者が独占しているため、卸電力取引市場も、恣意的に操作される恐れを含めていまだに不透明感があります。そのような卸電力市場を前提とする再生可能エネルギー支援策であるFIP制度は、時期尚早と言わざるを得ません。
送電線の接続負担金も、新電力参入の壁です。表向きは送配電分社化されましたが、送電線は旧一般電気事業者が、旧い考えに基づいて運用・管理しているために、再生可能エネルギーの新しい接続の枠がないとの判断が下されるか、可能な場合でも本来なら不要と思われる多額の接続負担金を支払う必要があります。
再生可能エネルギー中心の社会にするには、今の大規模発電所中心から、小~中規模発電所をネットワークで結んで各地に送電する方法に切り替える「分散型電源」が欠かせません。しかし、分散型電源は3つの課題があります。
(1)電力業界のIT化が遅れている(ビッグデータやIoT、AIなど)
(2)「上から下」への一方向だけだった送電線を双方向で運用できるアップデートが不可欠(各地に送電できる方法に切替え)
(3)透明・公平・公正かつ最新の技術や知見に基づく電力市場や送電線管理の導入。
これらの課題の解決に、注目が集まっています。(了)
【石井 ゆかり】
<プロフィール>
飯田 哲也(いいだ・てつなり)
1959年山口県生まれ。京都大学工学部原子核工学科、東京大学大学院先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。認定NPO法人環境エネルギー政策研究所所長。日本のFITの起草者で、自然エネルギー政策では、国内外の第一人者かつ日本を代表する社会イノベータ。国内外に豊富なネットワークをもち、REN21運営委員、自然エネルギー100%プラットフォーム理事などを務め、2016年には世界風力エネルギー名誉賞を受賞。日本でも国・自治体の委員を歴任。著書として、『北欧のエネルギーデモクラシー』(新評論社)、『エネルギー政策のイノベーション』(学芸出版社)、『1億3,000万人の自然エネルギー』(講談社)、『エネルギー進化論』(ちくま新書)など多数。関連キーワード
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