地球環境を踏まえた持続可能な「市場経済システム」を模索!(5)
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(一財)国際経済連携推進センター 理事 井出 亜夫 氏
多くの人々は、『歴史の終わり』(フランシス・フクヤマ著)や『フラット化する世界』(トーマス・フリードマン著)に描かれた、民主主義で自由経済のグローバル化した世界がほとんど虚構にすぎなかったと気づき始めている。トマ・ピケティ氏がベストセラーの『21世紀の資本』で指摘したように、グローバル化は、富の格差拡大やそれに伴う政治・社会問題などを生み出し、市場経済システムが不安定であると自覚したためだ。
(一財)国際経済連携推進センター理事の井出氏は、「自然を克服する欧米思想によってもたらされた近代は、もはや機能していない。新型コロナ後の世界では、人間の相対性や相互依存性に着目した「東洋思想」を振り返り、今後の対応に役立てるべきではないか」と語る。阪神・淡路大震災で、NPOの存在性と重要性を認識
――井出先生は1998年のNPO法(特定非営利活動促進法)成立に尽力されたと聞いています。
井出 ちょうど私が経済企画庁国民生活局長のときの話です。当時は世界的に、政府公的セクターや企業などに並ぶ新しいセクター(非営利セクター)が出現していました。
日本でも、高度経済成長が国民共通の目的たり得なくなった時期から、多元的ライフスタイルの追求、職場や企業に全エネルギーを捧げる生き方の修正、企業の成長市場主義からの脱却といった新しい価値観を求める動きが始まっていました。しかし、こうした議論はあったものの、NPO活動の存在が大きく国民の前に現れたのは、1995年の「阪神・淡路大震災」の時です。このとき、全国各地からNPO団体が復旧援助に駆けつけ、NPOの存在と重要性が社会的に認識され始めました。
震災勃発後の衆議院予算委員会において、当時自民党の加藤紘一政調会長は「今回の地震は誠に不幸なことであるが、この救済に当たるボランティアの活動を見ると新しい日本の動きを感ずる」として、ボランティアの法人格の取得、税制上の取り扱いに関して、当時の政府(村山内閣)の対応を求めました。
これに対して、当時の五十嵐広三官房長官は「関係省庁がチームをつくって、真剣にこの問題を検討したい」と応え、政府側においては、経済企画庁が中心となって十八省庁の連絡会が発足しました。私が国民生活局長に就任したのはこの約2年後で、村山内閣から橋本内閣に変わっていました。各政党に就任挨拶に回ると、社会民主党など野党議員からまとめ役である企画庁の責任を追及されました。
早速、行政サイドして、NPO活動およびその組織に法的根拠を設ける検討を試みました。しかし、従来の法制度との整合性や官庁間の調整に気を配ると、新しい制度は、NPOの理念・思想に馴染まない公益国家管理主義の仕組みを払拭しきれず、官庁の縦割的な色彩を払拭しようとすれば、既存法制との整合性や省庁間のジレンマに陥るとわかりました。かつ、NPO問題を扱う与党プロジェクトチームのメンバー間の認識、評価の大きな違いは、行政府が調整できるものではなく、またすべきものでもありません。
こうした問題は、政党間の議論による調整に委ねることが適切であり、政党間の意見調整により「議員立法」の成立を期待するスタンスで対応することが、議院内閣制の本来の姿であると考えました。結果的に98年に「NPO法(特定非営利活動促進法)」は成立しました。公益は国家が司るものという明治憲法の延長線上の論理に風穴を開ける一連の動きに参画できたことは幸運でした。
(つづく)
【金木 亮憲】
<プロフィール>
井出 亜夫(いで・つぐお)
東京大学経済学部卒、英国サセックス大学経済学修士。(一財)経済産業調査会監事、(一財)地球産業文化研究所理事、(一財)機械振興協会理事、同経済研究所運営委員会委員長、(認定NOI法人)日本水フォーラム評議委員、全国商工会(連)業務評価委員長、(一財)国際経済連携推進センター理事、(一社)フォーカス・ワン代表理事など。
1967年に通産省入省して99年退官。この間、OECD日本政府代表部参事官、中小企業庁小規模企業部長、経済企画庁物価局審議官、日本銀行政策委員、経済企画庁国民生活局長、経済企画審議官(OECD経済政策委員会日本政府代表)の役職などを歴任。退官後は、慶応義塾大学教授同客員教授、日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授同研究科長、INSEAD日本委員会メンバー、国際中小企業会議代表幹事・シニアアドバイザー、中小企業事業団理事、(公財)全国中小企業取引振興協会会長などを歴任。
著書として、『アジアのエネルギー・環境と経済発展』(共著 慶応大学出版会)、『日中韓FTA』(共著 日本経済評論社)、『世界のなかの日本の役割を考える』(共著 慶応大学出版会)、『井出一太郎回顧録』(共同編集 吉田書店)、『コロナの先の世界』(共著 産経新聞出版社)。関連記事
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