2024年12月28日( 土 )

地球環境を踏まえた持続可能な「市場経済システム」を模索!(6)

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(一財)国際経済連携推進センター 理事 井出 亜夫 氏

 多くの人々は、『歴史の終わり』(フランシス・フクヤマ著)や『フラット化する世界』(トーマス・フリードマン著)に描かれた、民主主義で自由経済のグローバル化した世界がほとんど虚構にすぎなかったと気づき始めている。トマ・ピケティ氏がベストセラーの『21世紀の資本』で指摘したように、グローバル化は、富の格差拡大やそれに伴う政治・社会問題などを生み出し、市場経済システムが不安定であると自覚したためだ。
 (一財)国際経済連携推進センター理事の井出氏は、「自然を克服する欧米思想によってもたらされた近代は、もはや機能していない。新型コロナ後の世界では、人間の相対性や相互依存性に着目した「東洋思想」を振り返り、今後の対応に役立てるべきではないか」と語る。

明治維新、戦後改革につぐ第3の開国が希求される

 ――最後に、読者の明日に向けてメッセージをいただけますか。

 井出 以下の4点をメッセージとしてお伝えします。 

(1)リベラルアーツ(※1)と時の目、鳥の目で見る歴史観  

 人間の相対性、相互の依存性を見つめ、全体と部分を理解・認識するうえで、リベラルアーツ、歴史意識の必要性は一層高まっています。明治以降の教育は、テクノクラート養成に主眼が置かれ、「リベラルアーツ、人間、社会、歴史の本質に迫る意識を埋没させることにならなかったか」を自問自答してほしいのです。

(2)ICT技術の可能性、限界、ルール形成の必要性 

 新型コロナ後の世界では、ICT、AIの活用が今まで以上に増えていきます。ICT革命と産業革命を比較した場合、その物理的距離や組織の大小の克服、そのおよぼす影響と範囲は、ICT革命が産業革命をはるかにしのぎます。しかし、これらの活用により、私たちは、本当に「人間の相互依存関係、相対性の認識を高められるか」を、もう一度考えてほしいのです。

(3)新しいパラダイムの形成、第3の開国

 英国の著名な歴史家E・H・カー氏は「歴史とは、過去と現在の絶えざる対話である」と述べています。私は、これに加え、「歴史とは、過去と現在の対話であり、未来への展望である」と考えています。今世界は大きな転換期にあり、日本は、明治維新、戦後改革につぐ新しいパラダイムの形成、第3の開国が求められています。 

(4)SDGsの重要性 

 現代人間社会と自然・環境との調和を展望するSDGsの思想は、人類にとって大きな第一歩といえます。この思想を企業はどう実践し、政策はいかにリードし、消費者もいかに対応するか、「市場経済システム」の永続性が問われる重要な事項です。 

 人類は産業革命以降、利便性や生活の豊かさの向上において、多くの成果を挙げてきました。他方、それまでになかった大規模な戦争、核兵器の保有、地球環境問題の発生など将来世代に対する負の遺産も積み重ねています。

 人類社会の永続を願い展望するならば、こうした負の遺産を早期に除去しなければなりません。それができなければ、人類の永続は困難であり、次の種族によって、我々が恐竜の絶滅の歴史をたどるように、「かつて人類という種族がいたが、自らの活動によって衰滅した」と記録されるでしょう。

(了)

【金木 亮憲】

※1 リベラルアーツ
ギリシャ・ローマ時代に理念的な源流をもち、「人が持つ必要がある技芸の基本」と見なされた自由七科(文法、修辞、論理、算術、幾何、天文、音楽)のこと。実践的な知性や創造力を養い、人間を良い意味で束縛から解放し、生きるための力を身につけるための手法といわれる。


<プロフィール>
井出 亜夫
(いで・つぐお)
 東京大学経済学部卒、英国サセックス大学経済学修士。(一財)経済産業調査会監事、(一財)地球産業文化研究所理事、(一財)機械振興協会理事、同経済研究所運営委員会委員長、(認定NOI法人)日本水フォーラム評議委員、全国商工会(連)業務評価委員長、(一財)国際経済連携推進センター理事、(一社)フォーカス・ワン代表理事など。
 1967年に通産省入省して99年退官。この間、OECD日本政府代表部参事官、中小企業庁小規模企業部長、経済企画庁物価局審議官、日本銀行政策委員、経済企画庁国民生活局長、経済企画審議官(OECD経済政策委員会日本政府代表)の役職などを歴任。退官後は、慶応義塾大学教授同客員教授、日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授同研究科長、INSEAD日本委員会メンバー、国際中小企業会議代表幹事・シニアアドバイザー、中小企業事業団理事、(公財)全国中小企業取引振興協会会長などを歴任。
 著書として、『アジアのエネルギー・環境と経済発展』(共著 慶応大学出版会)、『日中韓FTA』(共著 日本経済評論社)、『世界のなかの日本の役割を考える』(共著 慶応大学出版会)、『井出一太郎回顧録』(共同編集 吉田書店)、『コロナの先の世界』(共著 産経新聞出版社)。

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