2024年12月29日( 日 )

【凡学一生の優しい法律学】日本学術会議委員任命拒否事件(4)

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 橋下弁護士の詭弁は彼自身の独善論が基本となっているため、一般の人にはその矛盾や誤謬性がわかりにくい。論敵の前川喜平氏はこの状態について、「じつに詭弁がうまい」と感心したものである。橋下氏が10月7日付の投稿で「今回の戦犯は山極寿一学術会議前会長・京都大前総長」と名指しで批判した論文も、独善と背理に満ちたものであり、すでに指摘した論点と一部重複するが、改めて、その詭弁性と背理性について説明する。

(1)「任命権者である官邸との事前協議をしなかった」との非難

 これは明らかに総理大臣が「実質的な」任命権者であるとの前提のもと、「形式的な」任命権者(法令の文言でのみ認められる形式的認識)であるとしたもので、まさに本件事件の核心部分をスルーしている主張だ。これが橋下氏の独善であることは、誰の目にも明らかである。

 橋下氏は総理大臣が「任命する」との法文の文言のみで、「実質的」任命権の規定と独善的に解釈した。この姿勢で臨むことには、自信が菅総理大臣の単なる応援団にすぎないことに気づいていない哀れな姿が見て取れる。

 そもそも、菅総理大臣に実質的に任命権があるのなら、事前協議さえ不要であり、事前協議をしなかった前会長を非難する根拠がない。橋下氏は自らが設定した「事前協議」そのものの矛盾にすら気づいていない。

 しかしこの独善では、あまりにも実態を無視する論理となるため、「本来必要のない事前協議を必要とした」という。ここで読者は、橋下氏が見事に法文上の文言である「推薦」を「事前協議」にすりかえるというあからさまな詭弁の姿を見せつけられている。

 推薦とは、学術会議が独立して自治的に決定すること、その内容の提示であって、法文のどこにも、推薦をする場合には事前協議をすべきという義務は規定されていない。事前協議の必要性やその存在の主張は、まさに橋下氏が自己の論理を正当化するために独善的に設定した要件である。それどころか、政権が推薦権を無力化するためにすでに推薦に条件をつけたことを正当化し、応援する論理となっている。
 この場合、橋下氏は文言の不存在を無視している。実質的任命権の根拠は文言の存在のみに頼り、事前協議の存在は文言の不存在を無視したもので、自由自在の恣意的法文の解釈である。

 この独善論は、学術会議が「義務でもなんでもない」事前協議に応じなければ、「原則に戻り、任命権者が任命拒絶まではできる」と主張する。ここでも読者は、橋下氏が任命権と任命拒絶権をまったく同一のものとする詭弁に遭遇する。通常、任命権者は同時に解任権も有する。それは任命行為の本質が権限委任行為であるためだ。

 ところが任命拒絶権とは、拒絶権者以外に任命権者が存在する場合の概念であり、解任権とも異なる。ある任命権者がおり、それに対して別に拒絶権者がいるという矛盾した法制がまともな法制として存在するはずもなく、橋下氏の論理は根本的に背理・矛盾している。さらに「あとはその理由が問題となるだけ」と、再び法文のどこにもまったく根拠のない主張が展開される。

 橋下氏は、理由も根拠もなく山極氏を批判したくだりで「学術会議の推薦どおりに総理が任命する義務があるなら、それは学術会議に任命権があることに等しい」と正しい理解を示しながら、「それがおかしことくらい学者はわからんのかね」と実際は橋下氏自身が正しく理解していないことを暴露した。

 法文上は総理大臣に任命権があるような規定であるが、それには「推薦」に基づくことが明文に規定されているため、実質的な任命権者は推薦権者である学術会議にあると理解するのが整合的な理解である。
最後に述べられた詭弁は、ほとんどの国民がその趣旨を理解できないものだ。それは「問題は任命拒否の理由に国民が納得するかどうか。違法・違憲かどうかの法的問題ではなく、支持率がどうなるかの政治問題」という主張である。

 今回の任命拒否が日本学術会議法の規定の解釈をめぐって発生したものであるため、橋下氏の一人よがりである「理由付記」の必要性は論外としても、純然たる法的問題であり、これを何の根拠もなく否定するのは詭弁のために用意された橋下氏の独善論である。

 この事件が政治問題化していることは客観的事実であり、何ら不思議でも矛盾でもない。そして、その決着は支持率(の上昇や低下という変動)によって国民の判断が下されるという橋下氏の論述に至っては、日本のマスコミが発表する内閣支持率ほど恣意的で科学的根拠のないものは他にないため、同氏の本質がいかにアジテーター(扇動家)であるかを示すものである。以上の諸矛盾は橋下氏がすでに論理的に破綻にあることを示している。

(つづく)

(3)-(後)
(5)-(前)

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