構造スリットの第一人者・都甲栄充氏が来福~構造設計一級建築士・仲盛昭二氏とベルヴィ香椎の施工不具合問題を対談(1)
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Net I・B Newsでは、福岡市東区の分譲マンション・ベルヴィ香椎における建物の傾斜や構造スリットの未施工に関する報道を重ねてきた。記者が構造スリットについて調べていたところ、東京を拠点に建築物の構造スリットの調査などを手がけている一級建築士・都甲栄充(とこう ひでみつ)氏の存在を知り、先日、都甲氏が来福した際に、構造設計一級建築士・仲盛昭二氏も交えた対談にて取材を行った。
――ベルヴィ香椎における構造スリットの未施工の問題などを調べていくなかで、都甲氏の会社「(株)AMT一級建築士事務所」のサイト(https://amt-happy.co.jp/)を見つけて都甲氏に連絡を差し上げ、今回、来福される機会にお時間をいただきました。
都甲 データ・マックスのニュースサイトNet I・B Newsは、以前から拝見していました。今回は仲盛氏も交えてお話できる機会となり、ありがとうございます。
仲盛 今回、都甲氏とお会いする機会をいただき、感謝いたします。
――都甲氏は、大成建設(株)や住友不動産(株)に勤務された後、AMT一級建築士事務所を開設されました。さらに、東京地方裁判所の民事調停委員や八王子市マンション管理組合連絡会会長なども歴任され、さまざまな立場で建築を見てこられたのですね。
都甲 私は、大成建設で現場管理や開発を17年間、住友不動産でも工事監理などを17年間、担当してきました。住友不動産で工事監理や品質管理を担当していた頃に「構造スリット」に出会いました。
品質管理の立場でいくつかの新築物件を巡回しながら構造スリットに深く興味を抱きましたが、構造スリットの重要性を認識している私であっても、構造スリット施工の完全な管理は難しいと感じました。一般的な現場管理者は構造スリット施工の重要性を認識していませんから、完全な施工管理は望めないと感じていました。
――住友不動産に勤務されていたときに、構造スリットに関心をもったとのことですが、構造スリットについて掘り下げるようになったきっかけは何でしたか。
都甲 住友不動産を退社し、AMT一級建築士事務所を立ち上げた後、東日本大震災の復旧に関わり、実際の建物における構造スリット不具合の現場に出会いました。それ以降、現在まで12現場・約5,000カ所の構造スリット瑕疵(不具合)の調査から補修工事まで自ら立会い、検査・補修を経験することにより、構造スリット瑕疵(不具合)のノウハウを完全に自分のものにしました。
――構造スリットとは、どういうものですか。
都甲 構造スリットは、柱と壁、壁と梁などを構造的に分離するために設ける「切れ目」のようなもので、建物全体の構造的なバランスを保つことを目的としています。1995年に発生した阪神・淡路大震災の被害を分析した結果、建築界として構造スリットが必要との判断に至り、広く採用されるようになりました。
構造スリットは理屈としては、鉄道レールの隙間と同様の存在であり、厚さ25mm程度の発泡樹脂系の板状の材が用いられています。
仲盛氏ら構造設計者が、構造計算の過程で構造スリットの位置や形状を決め、図面に反映しています。仲盛 マンションでいえば、バルコニー側にはバルコニーに出入りする大きな窓があり、廊下側には玄関や窓などの開口が並んでいることが多いですが、開口以外の部分は袖壁・腰壁・垂れ壁などの雑壁(非耐力壁)として柱や梁につながっています。
柱や梁に雑壁が一体化している場合、地震時に柱や梁に局部的に大きな力が加わり、柱のせん断破壊などを引き起こします。このような事態を避けるために、構造スリットにより柱・梁と雑壁を切り離し、構造的な縁を切るようにします。構造スリットの設置が一般的になる前に発生した阪神淡路大震災の被害では、柱がせん断破壊した例が数多く報告されています。
――構造スリットは、どのように施工されるのでしょうか。
都甲 柱と非耐力壁を垂直に縁を切る場合、柱と壁の境界に樹脂製の構造スリット材(下記写真参照)を設置します。スリット材の両端はプラスチック製の溝となっており、この溝に目地棒をはさみます。ただし、目地棒は型枠に釘で固定されます。コンクリートが硬化したら型枠を外し、後日、目地棒を脱型することで、構造スリット材がコンクリート躯体に残ります。
(つづく)
【桑野 健介】
<プロフィール>
都甲 栄充(とこう ひでみつ)
福岡県北九州市生まれ、明治大学工学部卒業。大成建設(株)、住友不動産(株)を経て、2009年に(株)AMT一級建築士事務所を開設。主な資格は、一級建築士、管理建築士、一級建築施工管理技士、宅地建物取引主任者、管理業務主任者、監理技術者、特殊建築物定期調査員。(一社)日本建築学会司法支援建築会議・元会員、東京地方裁判所・元民事調停委員(建築裁判専門)、(一社)日本マンション学会・元会員、八王子市マンション管理組合連絡会・元会長。
URL:https://amt-happy.co.jp/
仲盛 昭二(なかもり しょうじ)
(協)ASIO代表理事、構造設計一級建築士。久留米市の欠陥マンション裁判では和解を勝ち取るため、原告区分所有者を技術支援。
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